いりぬか・ぬか漬けの素特集
◆いりぬか・ぬか漬けの素特集:ぬか漬け人気じわり シーズン入り好調
発酵食品ブームや健康志向の高まりで「ぬか漬け」が幅広い世代から注目されている。ぬか漬けを漬けるのに必要な、いりぬかやぬか漬けの素はシーズンになれば確実に売れる商品で需要は底固い。近年は、ぬか漬けがメディアやネット、SNSで定期的に取り上げられ、市場はじわじわと広がっている。(三井伶子)
●巣ごもり需要にも
ぬか漬けが注目されるきっかけとなったのが、13年放送のNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」だ。ドラマでは、主人公がぬか床をかき混ぜるシーンが毎回登場し、20~40代の女性を中心に手作りのぬか漬けにチャレンジする人が増えた。いりぬか・ぬか漬けの素の購入層は、これまで50~70代が中心だったが、近年は若返りの傾向が見られる。
2月13日放送のNHKの情報バラエティー番組「所さん!大変ですよ」では、「ぬか」をテーマに新旧ぬか漬け事情が紹介された。番組の反響は大きく、シーズン前にもかかわらず、スーパーのぬか関連製品の販売が跳ね上がっている。あるメーカーでは、放送直後の14日から29日までの販売量が前年比170%増、3月1日から17日時点でも同20%増と大幅に伸長。他のメーカーでも、リピート購入の動きが例年以上にあるという。
番組では、北九州の民家に300年受け継がれる“お宝”としてぬか床が登場。母から娘、孫へ代々伝わるぬか床が悪くならないよう、来る日も来る日もかき混ぜられたぬかが作り出す漬物の味が紹介された。一方、日本の伝統食であるぬか漬けが今、若い女性に大人気で、ぬか床に「ぬか子」など名前を付けてペット感覚で大事にする人までいると紹介された。
いりぬか・ぬか漬けの素の需要は、天候や野菜相場に左右される。今年は暖冬の影響で野菜価格が下がり、主要野菜のキュウリの出荷が前倒しで早まっている。青果物卸売市場調査の旬別結果によると、東京都(豊洲、大田、豊島、淀橋)のキュウリの平均価格は、2月上旬に1kg当たり605円だったのが3月上旬には383円と大幅に下がり、5~6月の最盛期に近い価格となっている。ただ、「出荷が前倒しになっただけで、本来のシーズンの5~6月がどうなるかは別問題」(メーカー)との見方もある。いずれにせよ、現在のところは野菜価格が安定し、ぬか業界にとって追い風になっている。
19年のいりぬか・ぬか漬けの素市場は、多雨や梅雨明けの遅れ、冷夏の影響を少なからず受けた。最需要期は天候要因で幸先が悪かったが、8月に入ると天候が回復。シーズンオフの秋口から需要が持ち直した。また暖冬であったことから、通常動きがない時期にぬかの需要が発生。昨年の販売は、最終的に横ばいとなるメーカーが多かった。
いりぬか・ぬか漬けの素は、(1)いりぬか(2)味付きいりぬか(3)パックタイプのぬか床(4)樽タイプのぬか床–に大別できる。近年は冷蔵庫で簡単に漬けられる、パックタイプのぬか床が若い女性を中心に人気となっている。パックのぬか床製品では今年、エスビー食品が15年ぶりにリニューアルを実施。ここ数年は味噌メーカーからの参入もあり、市場のさらなる広がりが期待される。
一方、水といりぬかで作るぬか床は、自分好みの味に育てられることから「ぬか漬け男子」に支持されている。漬ける素材も定番のキュウリ、ナスのほか、夏向けのトマト、秋向けのエリンギ、女性向けのアボカドなど季節やターゲットに合わせた素材が登場し、ぬか漬けメニューの幅が広がっている。
日本人の食生活は、昭和35(1960)年ごろから洋風化が急速に進み、特にコメの消費量が減少。それに伴い、伝統的な日本食が次第に敬遠されるようになっていった。一方、13年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、近年は和食回帰の動きも起きている。
和食の要件はご飯、汁、漬物であり「ぬか漬け」は日本の漬物の代表格である。乳酸菌や酵母が豊富に含まれ、漬けることでビタミンなどの栄養価が増す。例えば、キュウリに含まれるビタミンB1は、ぬか漬けにすると約10倍に増加する。ぬか漬けに含まれているビタミンB1は、糖質を分解する酵素を助け、エネルギーに変える働きがある。ご飯を食べるときにぬか漬けを一品として加えるのは栄養バランスの観点からも理にかなっている。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、体調管理の自衛策として発酵食品の納豆や乳酸菌を使った商品の売上げが好調だ。乳酸菌や酵母が含まれ、家庭でできるぬか漬けの巣ごもり需要にも、今年は期待できそうだ。