新春特集第1部
新春特集第1部:気候変動対策=イオン 脱炭素ビジョン 省エネ・再生エネ利用を推進
イオンは、2018年の時点で50年をターゲットにした脱炭素ビジョンを発表、中間目標として30年までに排出CO2の総量を10年比で35%削減するとしている。達成に向けたアプローチは(1)店舗(2)商品・物流(3)顧客との協業–の三つからなる。このうち店舗での取組みは、省エネ化と再生可能エネルギーの利用拡大がテーマだ。19~20年にかけては使用電気を100%CO2フリーでまかなう商業施設を4ヵ所開設、50年ビジョンの実現に向け具体的に歩を進めている。(宮川耕平)
●成果挙げる行動問われる
省エネにつながる最新技術は、施設ごとに使い分けて検証している。19年9月に開設したイオン藤井寺ショッピングセンター(大阪府藤井寺市)では、設備機器を外部から統合的に遠隔管理できるネットワークシステムを導入した。20年3月オープンのイオンスタイル海老江(大阪市福島区)は、各種センサーで収集した人の動きなどの館内データをAI(人工知能)で分析することにより、空調の効率的な運用を図る。
全店的な取組みとしては、社内資格としてエネルギーアドバイザー制度を設け、モールや総合スーパー(GMS)の社員が知識を備えることにより省エネを重視した施設運営に努めている。20年2月末で累計773人が同資格を取得、各店に1人以上を配置している。
グループのエネルギー消費量は、原単位(使用熱量を延べ床面積で割って算出)で19年度は28%削減(10年比)、排出CO2は9%減(同)となっている。
環境・社会貢献部の鈴木隆博部長は、「原単位での削減は効率化の進捗(しんちょく)を表すが、それだけではCO2排出ゼロには至らない。エネルギーの総量を削減し、再生可能なクリーンエネルギーにシフトしなければ実現しない」と語る。
ショッピングセンター(SC)などへの太陽光パネルの設置は以前から最大限に取り組んでおり、19年度末までの導入店は1040にのぼる。とはいえ発電量は使用量の数%にとどまるため、再生可能エネルギーの調達先を広げる必要がある。
前述の藤井寺や海老江の施設では、発電事業者にスペースを提供、そこで発電した電気を購入するPPA(電力販売契約)モデルを導入した。不足分は市場から再生可能エネルギーを調達するプランを活用し、CO2フリーを実現した。20年11月に開設したイオンタウンふじみ野(埼玉県ふじみ野市)、同年12月のイオンモール上尾(埼玉県上尾市)も、敷地内の発電と再生可能エネルギーの調達によりCO2フリー電気のみで運営する。
自家消費の発電量を増やすには、SCの敷地外で発電する方法も不可欠という。太陽光発電のコスト自体は下がっているものの、発電場所からSCまでの送電には制度上の負担が発生する。そうした制度の改正も要望しつつ、調達の拡大方法を検討している。
一部地域では、家庭の太陽光発電による電気を購入し、提供者にグループの「ワオンポイント」を付与している。また、19年にはイオンモール堺鉄砲町(大阪府堺市)で、来店客の電気自動車から施設で使用するための電気を調達する実験を行い、利用者にはワオンポイントを還元した。この試みは将来、電力調達の手段と来店動機づくりの双方になりうる。すでにグループSCの大半に電気自動車の充電器を設置しており、脱炭素社会における自動車インフラの拠点となるべく準備を進めている。
CO2削減と同じ温暖化防止の取組みで、とりわけ小売業で課題となっているのがショーケースの冷媒だ。普及している代替フロンは温室効果が極めて高く、自然冷媒への移行が必要とされている。
イオンは11年に自然冷媒宣言を発表、新店はもちろん改装を機に既存店の転換も進めている。前期末に導入店舗は累計855店になった。「完全に切り替えるには必要な機器の欠落などコスト以外の課題もある。ただ、脱炭素化と目的は共通であり、関係先と協力しながら着実に進めたい」(鈴木部長)
脱炭素化への行動指針の一つである商品・物流に関する取組みは、すべて関係先との協業が必要だ。物流に電車や船を活用するモーダルシフトなどバリューチェーン全体でCO2削減を進め、物流プロセスのデータ化や、それに基づく改善活動を継続している。
また、昨年はCO2排出ゼロとも関連してプラスチック使用量を削減する方針を打ち出した。30年までに使い捨てプラスチックの使用量を18年比で半減させることにより、CO2排出量も抑制できる。資材を石油化学系から変更するだけでなく、PB(自主企画)商品を中心に商品パッケージの小型化・軽薄化を進めていく。
イオンが脱炭素ビジョンを掲げて2年が経過した20年は、日本を含む多くの先進国がカーボンニュートラルに向け長期目標を掲げた。国内においても脱炭素社会の実現は、全産業に課される課題になろうとしている。鈴木部長は情勢の変化を実感するという。
「脱炭素に向けた世の中の動きは加速しており、それがイオンの取組みを後押しする力になる。これまでは『機運を高める』ことも課題と感じていたが、もはやその段階ではない。21年以降は脱炭素に向けた成果をどのように上げていくか、実際の行動が問われていく。当社だけで脱炭素を実現しても、社会に与えるインパクトは限られている。サプライチェーン全体やモールの出店企業、お客さまも巻き込んだ取組みを広げていきたい」(鈴木部長)