アイスクリーム特集
◆アイスクリーム特集:下期復調も成長一服 各社多彩に需要喚起
近年、消費者の旺盛な需要に支えられ拡大を続けてきたアイスクリーム市場だが、今年度は夏場の最需要期の不調を下期の復調がカバーしきれず、成長に一服感が出てきそうだ。これまで6年連続で過去最高を更新してきた同市場は、今年度(19年4月~20年3月)は5000億円超規模を維持しつつも前年比1~2%減での着地が予想される。今春の価格改定のマイナス影響は大きくは見られず、長梅雨による冷夏が最大の要因とみられている。迎える20年度は、各社多彩な需要喚起策を提案。新たな商品投入やロングセラーアイテムのブラッシュアップ、消費者の購買意欲を刺激する話題性の高いキャンペーンなどを展開していく予定だ。近年、アイスクリームは「子どものおやつ」から「大人も楽しめるスイーツ」としての定着が進んでいるが、180円など中間価格帯商品がプレミアム感を発揮し人気を獲得していることも見逃せない。多様な価値を提供することで、購入者の定着推進が市場再活性化の鍵となりそうだ。(小澤弘教)
●購入者定着が鍵
日本アイスクリーム協会によると、18年度のアイスクリーム類の販売金額(メーカー出荷額)は、前年比1.4%増の5186億円。13年度に史上最高額を更新してから6年連続で過去最高を更新した。
今年度は3月に一部を除き各メーカーが価格改定を実施。ノベルティーの130円が140円に、マルチの330円が350円になるなど値上げを行った。通常、改定の年は物量が落ち込むことが多いが、今回はそこまで大きな影響は見られず、ほぼ前年並みを維持しているようだ。
猛暑による氷菓の一時欠品が出た昨年度に続き、今年度も天候が業績に大きな影響を与えている。春先は温暖な気候が続き、幸先の良いスタートを切ったが、夏場に入り状況が一変。7月は平均気温が前年よりも4度Cほど低い冷夏となり、特に東京都心では33年ぶりの「前半の真夏日ゼロ」を記録した。各メーカーとも苦戦し、7月単月では前年比23~24%減と落ち込んだ。しかし、8月以降は挽回。下期に入ると9月の残暑や暖冬に支えられ前年超えの月が続き、市場は盛り返し。そのタイミングでの新商品投入も奏功した。ただし、最需要期に販売額を伸ばせなかったことの影響は大きく、上期の落ち込みをリカバリーするまでに至らなかったのが現状だ。
タイプ別には、ノベルティー、マルチともに前年微減で推移しているようだが、価格帯ではプレミアムよりも中間価格帯商品の購入率がアップしているとみられる。
爆発的なヒット商品が生まれているわけではないが、消費者の嗜好(しこう)は味わいが想起しやすい商品や定番商品の人気も継続している。日本アイスクリーム協会が1月に公表した「アイスクリーム白書2019」によると、「好きなフレーバー」はバニラが根強く、抹茶やアズキなど「和」のフレーバーの喫食機会も増加傾向にある。
同白書では、「今後のアイスクリームに対する期待」について、「新しいフレーバー(味)のアイス」「ローカロリー・低糖のアイス」「地域限定や期間限定など限定品アイス」などが上位にランクインし、迎える20年度はこれらを背景にしたさまざまな需要喚起策が各社から提案されていきそうだ。これまでの定番ブランドのスペックアップや新フレーバーの投入、野菜やタンパク質が手軽に取れるなどの健康系アイス、地域産品を前面に押し出した商品など、売場での買い回りを刺激するラインアップを充実させてきている。
ただし、アイスクリームも他の食品と同様、新商品の入れ替えサイクルが速いため、「トライアルをリピートにつなげる施策が重要」(メーカー)となる。SNSを使った情報発信など、デジタルコミュニケーションを活用した顧客接点の強化は今後も進むとみられる。
今夏は東京五輪・パラリンピックを控え、インバウンド含め夏の時期の需要が伸びることが予想される。消費意欲も底堅いことから、市場の再浮上は十分に期待できそうだ。