Hard&Soft新春特集

Hard&Soft新春特集:脱酸素剤・アルコール蒸散剤 食品ロス対策のキーアイテム

機械・資材・IT 2021.01.20 12173号 21面
食品スーパーやドラッグストアでも個包装商品の取り扱いが増えてきた

食品スーパーやドラッグストアでも個包装商品の取り扱いが増えてきた

 ◇存在価値高める一年に

 21年は品質保持剤業界にとって、自己の存在価値を高める一年になりそうだ。長期保存や小分けニーズに対応するため食品の個包装化が進む中、脱酸素剤やアルコール蒸散剤が注目されている。20年は新型コロナウイルス感染症の影響で全体の出荷量が大きく落ち込んだとみられるが、食品ロス削減をはじめ賞味期限延長や品質保持など食品業界が抱える課題を解決するキーアイテムとして存在感が高まっている。(涌井実)

 ●観光業界の不況が直撃

 品質保持剤に携わる企業の業績は、外部環境に左右されることが多い。つまり脱酸素剤やアルコール蒸散剤が封入された食品がよく売れればそれに比例して出荷量が増え、売れ行きが悪くなればその分出荷量も落ち込んでいく。

 20年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、生活者の消費行動が一変した。一般的な食品スーパーやドラッグストア、コンビニエンスストアなどで販売される商品は時期やエリアによって明暗が分かれたが、業界に最も深刻な被害を与えたのは旅行・観光業界の不振だ。

 国内での旅行消費額は、国内旅行者数の回復や旅行単価の増加、訪日外国人旅行者数の増加によって成長してきたが、コロナ禍で旅行・観光市場は一変した。世界各地の渡航・入国制限によりインバウンドが消失する事態になり、国内旅行についても甚大な打撃を受けている。

 例年であれば人でごった返すゴールデンウイークや夏休み、年末年始の駅や空港からは人が消えた。出張などビジネス利用客の数も激減した。数多くのイベントも中止になった。人が動かなかったことで土産物の売れ行きも悪かった。

 土産物向けの品質保持剤の供給量は非常に多いため、多くのメーカーにとっては厳しい1年になった。新型コロナの終息が見通せない中、今後旅行・観光市場がV字回復する見込みは少なく、21年も品質保持剤の供給量は苦戦を強いられそうだ。

 ●長期保存や個分け進む

 世帯人数や多様な食シーンに合わせ、食品パッケージの小型化・個包装化が進んでいる。食品は一度パッケージを開封してしまうと内容物が酸素に触れて品質が劣化するため、流通業界や消費者からは個包装商品を求める声が増えている。実際に和菓子や焼き菓子、珍味類、もち、菓子などではここ数年で個包装化が一気に進んだ。

 個包装化はフードロス削減にも効果的だ。必要なときに必要な分だけ開封すればよく、食べないときは脱酸素剤やアルコール蒸散剤が食品の鮮度を維持してくれる。SDGsの観点からも、食品業界全体でフードロス削減への取組みが強化されることは、品質保持剤業界にとって追い風になりそうだ。

 コロナ禍で新たに生まれた〈長期保存〉のニーズや〈個分け(小分け)〉需要を鑑みれば、今後も食の個包装化は続くとみられる。

 賞味期限延長や店頭での販売機会創出など課題解決にもつながるため、中長期的に安定したトレンドになりそうだ。これによって、今まで品質保持剤を使用していなかった中小規模のメーカーや街の洋菓子店で新たな需要が生まれる可能性もある。既存顧客でもこれまで使用していなかった商品への新規導入が期待できる。

 また、ECで食品を販売する機会が増えれば「個包装」「長期保存」「賞味期限延長」といったニーズの受け皿として脱酸素剤・アルコール蒸散剤への注目も高まりそうだ。

 ●適正利益の確保が課題

 品質保持剤業界内の懸念材料は、利益を圧迫するほどの価格競争に歯止めがかからない点にある。特に脱酸素剤は各社で取り扱う製品の種類やサイズに大差がないため価格競争に陥りやすく、ここ数年は新規顧客の獲得合戦が激化。「似た性能ならば少しでも安い製品を選びたい」というのがユーザーの本音で、製品単価は下落傾向にある。

 各社とも性能を維持しながら包材使用量を減らすなどしてコスト削減を図っているが、もともと利幅が少ないためコストダウンは限界に近い。資材費や物流費が重荷になり、適正利益の確保が困難な状況だ。

 確保した利益を新製品開発や販売促進に再投資できなければ、企業の健全な発展は得られない。人材育成や供給体制にも影響することになれば、業界内に不健全なひずみが生まれるだろう。メーカー各社は自社製品の特徴や強みを付加価値とし、食品業界に向けて継続的に情報を発信したり、積極的にコミュニケーションしたりすることが求められている。

 無益な価格競争からの脱却と適正価格での販売・利益確保は、今後品質保持剤業界が取り組むべき大きな課題になりそうだ。

 ◆脱酸素剤とは

 密封された包装内の酸素を吸収し、食品の鮮度を維持する製品。小袋状の脱酸素剤を食品とともに、ガスバリア性の高い包装資材を用いて密封する。鉄の酸化反応を利用して酸素を吸収する「鉄粉系」製品と、それ以外の「有機系」製品が主流。包装内の酸素の有無が可視化できる酸素検知剤一体型製品も人気。菓子やもち、ハム・ソーセージなどに多く使用されている。

 ◆アルコール蒸散剤とは

 アルコール蒸気でカビを不活化・抑制する製品。使用する包装材料は必ずしもバリア性フィルムである必要はない。コストは安価に抑えられる。

 アルコール濃度が高いほど制菌能力はあるが、アルコール臭が内容物に付着してしまう難点もあるため、そのバランスの見極めが重要になる。焼き菓子や和洋菓子などに利用され、ふんわりとした質感や食感を維持できる。

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