令和の食品産業特集
令和の食品産業特集:新時代展望=SDGs 社会課題解決の重要指標
SDGs(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ=持続可能な開発目標)は、国連サミットが2015年9月25日、全会一致で採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている16年から30年までの国際目標だ。地球上の誰一人として取り残さない持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現しようというもの。世界各国の現実、能力と発展段階の違いを考慮に入れ、各国の政策と優先度を尊重しつつ、すべての国に受け入れられ、すべての国に適用されるとして、先進国、途上国が政府だけでなく企業を含めて取り組むことで合意した。わが国でも官民挙げての取組みが進んでいる。(青柳英明、川崎博之)
●17項目からなる国際目標
国際目標は、(1)貧困をなくそう(2)飢餓をゼロに(3)すべての人に健康と福祉を(4)質の高い教育をみんなに(5)ジェンダー平等を実現しよう(6)安全な水とトイレを世界中に(7)エネルギーをみんなにそしてクリーンに(8)働きがいも経済成長も(9)産業と技術革新の基礎をつくろう(10)人や国の不平等をなくそう(11)住み続けられるまちづくりを(12)つくる責任つかう責任(13)気候変動に具体的な対策を(14)海の豊かさを守ろう(15)陸の豊かさも守ろう(16)平和と公正をすべての人に(17)パートナーシップで目標を達成しよう–の17項目からなる。
例えば目標(2)は2030年までに、飢餓とあらゆる栄養不良に終止符を打ち、持続可能な食料生産を達成することを目指している。また、誰もが栄養のある食料を十分得られるようにするために、環境と調和した持続可能な農業を推進し、生産者の所得を確保し、農業生産性を高めるための研究・投資を行う必要があるとした。
●“飢餓ゼロ”達成に厳しさ
ただ、国際目標(2)の達成は難易だ。国連が19年7月15日に発表した最新の「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書によると、世界の飢餓人口は3年連続で増加、18年は9人に1人の8億2160万人だった。アジアが最も多く5億1390万人、次いでアフリカの2億5610万人、ラテンアメリカ・カリブ海地域の4250万人。厳しい状況にあるのはアフリカで、飢餓蔓延(まんえん)率が世界で最も高いという。しかも、アフリカのどの地域でもゆっくりと着実に上昇している。特に東アフリカでは、人口の3分の1近くが栄養不足に苦しんでいるとした。11年以降、経済の低迷や停滞によって飢餓が増加している国のうちの半数近くがアフリカ諸国で、気候や紛争などの要因に加え、経済の低迷と景気悪化が飢餓の増加を助長している。
一方、飢餓人口の最も多いアジアは、その多くが南アジア諸国。また、あらゆる形態の栄養不良がアフリカとアジアの両地域で占めている。世界の発育阻害の子ども10人中9人が、消耗症の子ども10人中9人がこの二つの地域に集中しているとした。南アジアとサハラ以南のアフリカ地域では3人に1人の子どもが発育阻害という。発育阻害と消耗症の問題に加え、世界の子どもの肥満人口の75%近くもアジアとアフリカとなっている。この原因は、主に不健康な食生活によるものとした。「困難を伴う現在の傾向に対処していくために、私たちは大規模で多様なセクター間の連携をより大胆に行っていく必要がある」と国際連合食糧農業機関、国際農業開発基金、国連児童基金、国連世界食糧計画、世界保健機関の各代表は同報告書の共同序文で呼びかけている。
●重要性増す食品ロス削減
食品産業にとって、食品廃棄ロスは深刻な問題だ。コスト負担に加え、環境に対する配慮や先進国と途上国におけるカロリーの偏在など企業の社会的責任という面からも解決すべき喫緊の課題だ。農林水産省が19年4月に公表した、2016年度の食品ロス量は、643万tで15年度の646万tに比べ3万t減少した。事業系食品ロスは、前年から5万t減少し352万tと減少が進んだ一方、家庭系食品ロスは、前年から2万t増加し、289万tとなった。
15年9月の国連サミットで、「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されたことで、16~30年の15年間で世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させることが、世界共通の行動目標となったことで、食品廃棄ロスの削減は、食品業界にとって社会的責任として重要性を増している。
わが国では、官民共同で食品廃棄ロス削減へ取り組むが、余剰在庫は受注生産ではないナショナルブランド商品の宿命でもあり、急速な改善は困難だ。
食品廃棄ロス削減への取組みは、サプライチェーン全体で取り組む、いわゆる3分の1ルールの改善や食べられるのに廃棄せざるを得ない供給者と、その食品を活用する需要者のマッチングをIT(情報技術)で行うフードシェアリングプラットフォームの活用、さらには、賞味期限や消費期限の延長、フードバンクの活用など複数の課題解決の策があり、それぞれの取組みは着実に前進している。
3分の1ルールは、2分の1ルールへと改善が進んでいる。個々の食品製造業だけでなく、卸や小売とも連携してサプライチェーン全体での努力が続いている。また、菓子業界と清涼飲料業界で、賞味期限を年月表示への切り替えも進み、食品ロス削減につながっている。
●フードシェアリング活用も
また、ITで行うフードシェアリングプラットフォームを活用する動きが急速に広まっている。フードシェアリングプラットフォームの構築にいち早く取り組んだ、グラウクスは、余剰在庫に悩む食品企業にブランド価値を毀損(きそん)せず販売でき、同時に社会貢献も果たせる画期的な仕組みの社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI・jp」を15年2月27日に開設。消費者は高い割引率で購入できると同時に、購入金額の一部が社会貢献団体に寄付されることから、手軽に社会貢献を果たすことができる。同サイトは、メーカー、消費者、社会貢献団体の3者にとって“利益”がある食品廃棄ロスの解決に向けた新たな取組みだ。
大手食品卸もフードシェアリングプラットファームの運営事業に関心を寄せる。伊藤忠食品は、食品ロスの削減に向け、フードシェアリングプラットフォームを運営するコークッキング(東京都港区)へ出資すると19年7月に発表した。コークッキングの食品ロス削減への取組みを支援するとともに、自社のインフラを通じた新しいビジネス機会の創出を推進する。コークッキングは18年4月から外食・中食事業者向けに、まだ安全においしく食べられる売れ残りや廃棄予定の食品と買い手(食べ手)をつなぐフードシェアリングプラットフォーム「TABETE」の運営を開始。現在、首都圏・関東を中心に14万人以上の「食べ手」と300店舗以上をつなぐ。「TABETE」のアプリを通じて利用者は商品を割安で購入できるとともに「食べ手」になることで、食品ロス削減にも取り組める仕組みとなっている。
伊藤忠食品は卸の本業を通じて社会課題の解決に資する新たなビジネスの創出を検討しており、コークッキングへの出資によって食品関連の取引先ネットワークやEC(電子商取引)、Web関連ビジネスなどとの協業を推進。「TABETE」のさらなる普及や出店登録の拡大を共同で進めるなど、幅広い分野での連携を図っていく考えだ。 フードバンクの活用も進んでいる。ローソンは賞味期限が残っているものの、物流センターで廃棄すべき店舗への納品期限を迎えた余剰食品を全国フードバンク推進協議会を通じて、食品の支援を必要としている家庭や子ども食堂、児童養護施設、障がい者福祉施設などに寄贈する取組みを始める。三菱食品と連携して全国規模で展開する仕組みも整えた。食品ロス削減や子どもの貧困などの社会的な課題解決に寄与するのが目的だ。
消費期限延長で食品廃棄ロス削減に資する取組みも進んでいる。山崎製パンは、人手不足が深刻化する小売業の課題解決として商品の消費期限の延長への取組みを強化している。和菓子のまんじゅう、大福などから開始し、菓子パン、惣菜パンに拡大している。延長はおおむね1日程度で、消費期限延長の取組みは小売業から高く評価され、販売実績も高くなる傾向があるという。今後も順次、対象商品を拡大する。
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