令和の食品産業特集
令和の食品産業特集:新時代展望=輸出・グローバル 日本茶に見る世界での挑戦
世界から評価やニーズが高まる抹茶を中心とした輸出拡大やグローバル戦略による日本茶の普及・浸透を目指す取組みが活発化している。鍵となるのが(1)日本茶固有の蒸製という製造方法による高い品質や味わい、機能性(2)日本茶の文化的背景やストーリーなどの日本茶文化–だ。日本茶の持つ上級茶としての味わいや魅力、その価値を、各地でじっくり訴求し、普及拡大や浸透を図るというもの。2023年まで世界の緑茶リーフ市場は平均5.9%の伸長が見込まれている。拡大する世界の緑茶リーフ市場での存在感をさらに高めながら、減少する国内市場の回復にも注力し、日本が誇る優れた日本茶の味わいや文化を通して、国内外でさらなる拡大に努める挑戦が始まっている。(本吉卓也)
●業界横断の初連携
緑茶(日本茶)業界は国内市場におけるリーフ茶需要の減少や生産者の高齢化による後継者不足、廃業などの課題を抱えている。また、少数世帯や共働き世帯増加による社会環境の変化などから、ティーバッグやインスタントなどリーフの簡便性製品や伸長を継続するPETボトル飲料が拡大する一方で、急須で入れたお茶を知らない世代が増加するなど、平安時代以降、続く日本茶文化の伝承の危機が確かにある。
日本茶業中央会はイ草の熊本県い業生産販売振興協会、花きの全国花き振興協議会、蚕糸(さんし)の大日本蚕糸会の3業界団体と19年6月10日に和文化・産業連携振興協議会を設立した。近くて遠かった4業界の生産団体と文化団体による業界横断の初の連携となるもので、それぞれと関係の深い和文化の団体との親交も深め、日本茶の生産と茶道という日本茶の文化をはじめとした危機的状況にある和文化の伝承に取り組んでいく。
●上級の訴求に注力
日本茶輸出促進協議会は、日本茶の輸出を促進するため、輸出に対応できる産地の育成、輸出先国の輸入条件の把握や対応策、輸出先国におけるセミナーの実施やPRなどを通じて、日本茶の普及態勢を整備し、日本茶業の振興に資することを目的に設立された。従来は、それぞれの団体・関係者が実施していた輸出用茶の生産体制の整備、輸出環境の整備などを一体的に進めている。
日本茶の輸出は、近年、増加傾向にあるが、世界の茶類・嗜好(しこう)飲料の消費形態が大幅に変化したことに加え、日本の輸出用茶の生産・輸出体制が整備できていないこともあり、さらなる輸出拡大を進めるためには多くの課題があるという。
同協議会の杉本充俊事務局長によると、19年の1~5月の輸出実績は、輸出量、輸出額とも、前年比7%増と堅調に伸びているが、輸出先の個々については、実態調査が必要な国が多々ある現状であるという。19年1~5月は、EU(欧州連合)への輸出が数量、金額とも減少している半面、ASEAN諸国への輸出は順調に伸びている。
輸出金額に占める粉末状は61%に上り、いわゆる世界の抹茶ブームを裏付ける結果となっている。主要輸出先となる米国は、単価の高い粉末状比率が67%と高く、数量、金額とも伸びている。カナダの伸びは注目に値する。
重点地域である香港は、輸出量で前年同期比81%減、金額で同64%減と減少しており、極めて憂慮される。インドネシアが、数量で同121%増、金額で同133%増と急伸しており、特に粉末状比率が91%と、輸出増加の原動力となっている、とした。
杉本事務局長は「輸出が増えた背景には、日本茶の品質の高さや機能性が評価されていることが大きい。ただ、競合する中国茶などに比べると、高価であることや国内の輸出茶生産体制、各国の輸入条件に合った輸出態勢などが整備しきれていないことなど、今後解決すべき重要な課題は多い」と語る。
日本茶の優位性について杉本事務局長は「日本茶の特徴として、蒸製という、生葉を蒸気で蒸して酵素を失活させる製造方法が挙げられる。蒸すことで茶の葉本来の美しい緑色と高品質を保ち、色・香り・味がバランスよく生成され、世界的にも特徴のある煎茶となる。また、念入りな揉(も)み工程により、効率良くお茶の栄養成分が摂取できる点や高品質であること、カテキンなどの機能性成分による効能、日本食(和食)との相性などをアピールしていく必要がある」とした。
●文化も指導・普及
もう一つの優位性は日本茶が有する文化だ。「日本茶の文化的背景やストーリーを、積極的にアピールするために、海外の消費者やバイヤーに向け、日本茶の取り扱い方法や日本茶文化をじっくり教育しながら、浸透させていくことが何より大切となる」(杉本事務局長)と言う。
その一例として、日本茶大使がある。海外に在住する日本茶に関する専門知識を持ち、普及指導資格をもつ日本茶インストラクター協会会員を日本茶大使に任命し、海外での日本茶の正しい知識を普及することを目的に在住国において、普及活動を推進している。
また、消費者目線でその年の優れた日本茶を決定する「日本茶アワード」(主催=日本茶インストラクター協会、日本茶AWARD2019実行委員会、日本茶審査協議会)の審査会を昨年のフランスはパリに続き、今年はドイツのベルリンでも開催するなど、日本茶の魅力や価値を海外にて訴求する取組みも活発化している。
杉本事務局長は「国内需要をいかに拡大するかと同時に、海外では、高品質かつ安全・安心に加え、健康的かつおいしい日本茶を上級茶として訴求する戦略に注力していく。日本茶文化も併せて、海外では評価が高まる抹茶は、日本茶を代表する茶種になっており、需給バランスが難しいが、正しい日本抹茶の輸出を行っていく必要がある。今後の方向性として、まずは米国を軸にフランスなどのEU諸国に加え、中近東エリアへの日本茶の普及を図るなど、新たなエリアへ積極的に取り組んでいきたい」と語った。
●日本の強みを展開
「世界のティーカンパニー」を目指す伊藤園は、グローバル戦略を推進している。同社は現在、「お~いお茶」ブランドの販売とともにグローバルブランド「ITOEN MATCHA GREEN TEA」を中心としたリーフ製品などを北米や東アジア、東南アジア、オセアニアなど30ヵ国以上で展開している。オーストラリアでは豪州産茶葉100%を使用するなど、地産地消戦略を推進している。
日本で唯一、緑茶(お茶・日本茶)のドリンク・リーフ・ティーバッグ・インスタントのフルラインアップを展開し、海外で拡大できる企業として、世界で人気が高まる抹茶の世界販売実績を高めるなど、さらなる世界市場での存在感を示していく。
同社によると世界の緑茶リーフ市場は19年から23年に向けて、平均5.9%伸長すると予測しているという。そのような状況下で同社のグローバル戦略の核となるのが国際事業推進部だ。「グローバル戦略の中で、軸となるのは米国と中国となる。まずは、この2大市場で、じっくり育成していくことが最優先となる」と中嶋和彦国際事業推進部部長は語る。
「メガトレンドとしての健康志向は米国でもあるが、米国でのお茶は酸味が強いことから、すっぱい味わいが多く、砂糖が入っている人工的な製品しかない現状がある。そのような市場環境に対応した味覚提案を行うのではなく、『お~いお茶』などの強みや価値は変えずに、お茶はお茶として、日本で培ってきた味わいや価値、強みを各国でも展開していくことが何よりも必要なことで、それが海外戦略ではなく、グローバル戦略だと思う」と中嶋部長は意気込む。
●体験で認知・理解
特にドリンクを中心に市場が成熟し、競争が激化する日本とは当たり前のことだが、お茶や日本茶に対する印象や価値は異なるため、まずは、日本茶の持つ価値や強み、魅力を訴求し、日本茶を飲む理由や飲用シーンをじっくり、育成していく意向だ。
「『お~いお茶』などの日本茶製品の提供する味わいを受け入れてもらうことが必要となる。そのためには、日本茶製品を飲む理由やシーンをじっくり、提案し、根付かせていくことが最優先事項となる。米国では、日本茶の味わいや存在が個性的となる。個性的ということは特徴的であるため、その価値をしっかり理解してくれている既存ユーザーを中心に、その輪を広めていきたい。カテキンやアミノ酸、ポリフェノールなど、天然の植物由来の健康性や鮮やかな緑の水色を提供できる技術の確かさなど、その価値を理解いただける方々を中心に取り組む。まずは、米国においてのロイヤルユーザーとなる、健康意識の高い方々との絆を深めながら、『お~いお茶』などの認知を高めていきたい」(中嶋部長)
そのための重要なアプローチとなるのが、コミュニケーションや店頭でのサンプリング、EC(電子商取引)チャネルだという。広大な米国では、ECチャネルの比重が大きく、飲用理由や健康性を訴求できる重要なアプローチ手段となる。しかし、実際に体験してもらうことのできる店頭でのサンプリングやデジタルサイネージなどの交通広告などが重要なため、健康意識の高い人々が多い地域を絞り、徐々に拡大し、さらなる普及・浸透を図っていく。
中嶋部長は「国内外問わず、普及浸透には口コミが大きい。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及から、その発信力や拡散するスピード・エリアが拡大している。実際に体験してもらい、認知を図り、理解を深め、トライアルにつなげるなど、リピーターからロイヤルユーザーへの進化を狙っていきたい」と語る。
グローバル戦略で目指す目標として、中嶋部長は「『お~いお茶』=『健康』=『抹茶』=『日本茶』=『伊藤園』というように、製品カテゴリーとブランドが結びつき、認識される状況を目指し、取り組んでいきたい」とした。
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