令和の食品産業特集

令和の食品産業特集:平成の到達点=和食 減る調理、危機的状況変わらず

特集 総合 2019.08.24 11929号 35面
遺産登録を祝う千葉県房総の祭りずし

遺産登録を祝う千葉県房総の祭りずし

豊富なアイテム数で需要喚起するCVSおにぎり(ローソンゲートタワー大崎店)

豊富なアイテム数で需要喚起するCVSおにぎり(ローソンゲートタワー大崎店)

◇食文化継承へ国民運動

「和食=日本人の伝統的な食文化」が2013年12月4日、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録され、5周年を迎えた。絶滅の恐れのある、多様な文化の保護・継承を登録で目指した。食品輸出額が1兆円に迫り、海外の日本食レストランは11万店を超えた。海外での浸透が順調な半面、国内は調理が減るなど、危機的状況は変わらない。18年に法改正して食が文化と明記され、だし給食が普及するなど、文化促進の好材料もそろってきた。保護・継承と活性化を担う、和食文化国民会議(和食会議)は運動を進化。和食会議の活動歴と展望を、献立の中心となるコメの動向とともに追った。(佐藤路登世、吉岡勇樹)

●自然尊重する複合的文化

日本政府は和食文化をユネスコ遺産に登録する提案を12年3月に申請した。学会・料理業界の関係者による、登録に向けた検討会(和食会議の前身)が11年7月から発足して登録内容を決めた。

当初は懐石料理を中心に申請する予定だったが、限定せず、国民皆で喜べるように和食文化として最終的に申請した。昔ながらの一汁三菜のスタイルを基盤に、生食やだし、食器などの文化、「いただきます」といったあいさつが象徴する自然への感謝などが、世界遺産に当たると提案した。

無形文化遺産は、世界遺産、記憶遺産と並ぶユネスコ事業の一つ。芸能や社会慣習、祭礼行事、伝統工芸技術などを保護する。食文化は少なく、和食はフランスの美食術、地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケシケキ(麦がゆ)伝統に続く5件目となった。

遺産登録した和食の特徴は、多様で新鮮な食材と素材の味わいを活用、バランスが良く健康的な食生活、自然の美しさの表現、年中行事との関わりの4点。自然を尊重した、複合的な文化の営みを無形文化遺産とした。

●世界的日本食ブーム続く

輸出戦略では遺産登録は日本食文化の発信そのもの。日本は長寿国として知られ、健康を支えるのが和食と広く認められて、世界的な日本食ブームが続く。18年の農林水産物・食品の輸出額は前年比12.4%増の9068億円。19年目標の1兆円を目前にして手が届きそうな勢いだ。うち大項目ではアルコールや醤油といった加工食品が最大構成比。水産物、畜産品、青果、穀物に勝って、17.7%増と大幅に伸び、全体をけん引。遺産登録された13年比で60%増と拡大した。

和食の各国での現地化を支えるのが日本食レストラン。13年は約5万5000店だったが、15年に約8万9000店、17年に約11万8000店と4年で倍増した。特にアジアの6万9300店の伸び率が高く、訪日外国人の急増も貢献。18年にはアジアからの2675万人を含む3119万人が訪日。外国人観光客の食体験の広がりが、世界展開を後押しする。人口減の国内の外食市場も微増させ、成熟国家の数少ない成長戦略が示されている。

農林水産省の調査では国内でも和食イメージは良い。健康的で栄養バランスがよく、野菜がたくさん食べられると子育て世帯が評価。ただし、調理は手間、面倒とされて、地域や次代への伝統料理や作法の継承率は38%。19年度50%以上を中期目標にして普及活動を続ける。

●次代への受け継ぎを支援

国内では主食でコメの独り負けが続き、基礎調味料の代表格である醤油・味噌の需要停滞も長期にわたる。料理の味付けや調味料の減塩、健康志向が叫ばれているが、三角食べなどのバランスの良い食事順が少ないのが現状。主菜・副菜を中心に食べ、ご飯の消費量が減少。結果、主菜・副菜の減塩ばかりが求められ、口内調味という日本食の妙味や、相対的に低GI(食後血糖値上昇指数)で栄養バランスに優れたご飯食が減退している。

遺産登録は和食文化を次代へ受け継ぐための体制、方策、活動の国支援を確約する。農水省は健康価値を実感してもらうワークショップ、専用Webサイトを立ち上げるなどして、子育て世代の和食調理を促す。今期からは地域の食文化承継を強化。地方公共団体、大学を巻き込み、地域ぐるみで代表的な郷土食の歴史や由来、関連行事、食材、調理法などを調査、記録する。新たにデータベースを作成して保存。地域連携も進めて普及を図る。

和食保護の国民運動を率いるのが和食会議。文化継承に責任を持つ唯一の団体として15年2月から活動を始めた。一般社団法人として世代を超えた文化伝承に注力。「調査・研究部会」「普及・啓発部会」「技・知恵部会」の3部会と連絡会議を設けて、講演会や見学会、シンポジウムなどの活動を重ねている。

●和食月間でだし・汁物を

和食会議の主要事業が11月24日の「和食の日」の定着と11月のだし給食、五節供の行事食普及。実りの時期である秋に記念日を制定し、自然に感謝し、五穀豊穣を祈る各地の行事と連動する。

和食の日を含む11月を和食月間とし、月内の小中学校、保育施設の給食で、だしが感じられる汁物を提供してもらう。協力校には児童向けだしテキスト、教師用説明資料を提供して食育を後押しする。

15年の参加1957校からスタートして19年は8513校と順調に増加。市区町村と給食センターの取りまとめ協力、文部科学省の後援が指示されて、最近2年は増加ペースを速めている。東京都のオリンピック・パラリンピック教育講座にも指定。今年は参加1万2000校を目指し、現在の申し込みペースは目標を上回る前年比50%増と勢いを得た。今後は健康栄養価値を伝え、後援機関を増やす。

五節供は1月7日の人日(じんじつ)の七草がゆといった、奇数月の行事食をホームページやセミナーなどで紹介。江戸時代の公休日から普及した歴史、神人共食の精神を、季節を感じる源泉と伝える。前期から本格提案し、ボランタリーチェーンの情報誌やレシピ集、メーカーの販促にも採用された。

●若年層へは節供食を提案

今期は5月5日の端午の節句にインスタグラムの消費者キャンペーンを初開催。予想以上の738件の投稿を得て、若年層への節供提案を深めた。さらに節供食の給食採用も促進。給食だよりや献立表に使いやすいイラスト、ロゴ、テキストを揃えて、活用例には和食会議監修の書籍を参考図書として贈る。

そのほか、出前授業の食育講座を23種揃え、前期からホームページで応募を受け付けた。昨年は全国45ヵ所で開催し、今期は80件も問い合わせを得た。すでに50ヵ所で行い、100件の来期目標を達成しそうだ。

家庭・地域の食文化の集積である和食を誇り、高めることは国全体の豊かさに直結。和食はだしのうまみによって低脂肪でも旬の食材がおいしく食べられ、健康的で季節や地域への感謝が自然と生まれる。保護・継承活動は心身を豊かで健康にし、他文化と交流して国内外を幸せにする。

●コメからご飯へ消費移行

少子高齢化の進展や人口減による胃袋縮小、食生活の多様化・洋風化などで、日本人のコメ離れが加速している。1人当たりの消費量は1962(昭和37)年の118.3kgをピークに年々減少し、89(平成元)年は70.4kg、直近の2017(平成29)年には54.2kgと、半世紀で半減、平成の間では約23%減少した。結果、恒常的なコメ余りに陥り、単価下落を誘発するとともに、農家の高齢化と相まって担い手不足、耕作放棄地増加など農業問題に進展している。

米価は、長期スパンで下落傾向にある。ただ、需給均衡を狙って農水省が、飼料用米の生産を手厚く助成した結果、平成27年産から需要量が供給量を下回り4年連続の値上げを誘発した。米価上昇は業務用ユーザー(事業者)の採算を悪化させ、寿司のシャリ玉やおにぎり、茶碗や弁当に入れるご飯の量を減らすなど自衛策を講じるケースが多く見られた。

コメも“量”より“質”を求める時代となり、各産地では、新たなブランド米創出機運が高まっている。山形県の「つや姫」や北海道「ゆめぴりか」から端を発し、その後も新銘柄が続々、誕生している。背景には、18(平成30)年の生産調整見直しがあり、産地側がブランド育成に躍起となり、産地間の競争は激化している。

半面、少人数家族や有職主婦の増加などによる、家庭での炊飯機会が減少し、コメではなく、ご飯を買う時代になり、外食や中食など業務用ルートに流れるコメのウエートが増えている。農水省では、目下市場流通するコメの中で、業務用に流れるコメが約3割とするが、大手コメ卸の間では「すでに4割近くに上っている」という声も聞かれ、今後も増加が見込まれている。そこで、業務用市場を狙った、低コスト生産が図れる多収穫かつ良食味新品種の開発も進み、産地では実需と結びついた契約栽培が増加している。

おにぎりや弁当など、旺盛な中食需要に対応した炊飯の需要は間違いなく伸長し、人手不足によるスーパーや外食のアウトパック需要の高まりが追い風となっている。

ただし、コメをはじめとする原材料費はもとより、物流費や人手不足による人件費などが高騰する一方で、価格競争は激化し、炊飯企業の収益を圧迫している。

そこで、有力企業の間では、独自性のある高付加価値商品を強化する動きが出てきた。こうした商品が細分化する消費ニーズはもとより、インバウンド需要にも対応するか否か注目されるところだ。

中でも、近畿圏有力企業エスアールジャパンでは、20代女性の商品開発チームを結成。女性や主婦ならではの感性に裏打ちされた、新感覚の商品群が次々生まれている。

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