令和の食品産業特集

令和の食品産業特集:平成の到達点=食品の安全・安心 大きく揺らいだ30年間

総合 2019.08.24 11929号 27面
ギョウザ中毒問題で第三者委員会の報告を受けた後の08年2月22日、記者会見した当時の山下俊史・日本生協連会長(左)と吉川泰弘・第三者委員会委員長

ギョウザ中毒問題で第三者委員会の報告を受けた後の08年2月22日、記者会見した当時の山下俊史・日本生協連会長(左)と吉川泰弘・第三者委員会委員長

◆令和に課題引き継ぐ 消費者理解、海外対応も

平成の三十余年間に食品の安全・安心は大きく揺らいだ。食品企業による事故・事件、表示の偽装・ミスなどに加えて、鳥インフルエンザ、口蹄(こうてい)疫、牛海綿状脳症(BSE)などの感染症などもあり、行政の制度、国際的な整合性への対応などが課題となった。行政も食品安全委員会や消費者庁を設置し、制度を変更してきた。HACCP(危害要因分析重要管理点)を義務付けた食品衛生法、食品表示法など法令順守(コンプライアンス)体制の構築、企業の社会的責任(CSR)、持続可能な開発目標(SDGs)、海外の小売業などが要求している食品安全マネジメントシステムなどへの対応が令和の時代にも課題としてつながっている。(伊藤哲朗、本宮康博)

◇衛生管理超える事態 2事件が生協巻き込む

食品表示ミスは以前にもあったが、農林水産省などの監視も強まり、2006(平成18)年ごろからは偽装などが多く発覚した。また、今までの食品衛生管理では想定していないような事件も起きた。事件、事故などを起こした食品企業が指導などの行政処分に加えて、刑事罰の色合いが強い詐欺罪に問われる事態にまで発展する。そうした企業から商品を調達した企業にも影響が出る。07(平成19)年と08(平成20)年に、日本生活協同組合連合会が巻き込まれた二つの事件があった。北海道のミートホープ社による牛肉の偽装と、中国の天洋食品で製造した冷凍ギョウザへの農薬の意図的な混入。日本生協連はPB(自主企画)商品の委託先に責任を転嫁せず、自らも消費者などに謝罪した。こうした事件もあって消費者庁が設立し、食品表示法が順次、施行された。今はフードディフェンスに多くの食品メーカーが取り組んでいる。

07年6月20日に朝日新聞がスクープ記事を掲載した。日本生協連がPB商品として販売している「CO・OP牛肉コロッケ」の原料が牛肉ではなく、内臓肉や他の畜種だったのだ。牛肉コロッケ自体は北海道の冷食メーカーが製造していて、同社はミートホープから原料を調達していた。

ミートホープではもともと元社員が「不正が行われている」ことを朝日新聞に情報提供する前に、農水省の地方機関である北海道農政事務所、北海道庁、北海道警察には伝えていた。JAS法事案のため道警は動けず、北海道農政事務所は「北海道内でのみ流通している」「業者間取引はJAS法では積極的に取り締まれない」とし、道庁に任せる判断をしたという。道庁はそのような連絡を受けていないとしている。

朝日新聞に記事が出てから、道警、道庁、北海道農政事務所も動き、首謀者を虚偽の情報を提供したとして、不公正競争防止法で検挙、後に詐欺罪としても立件した。

農水省はJAS法でも業者間取引にも表示や送り状などによる情報伝達を義務付け、警察庁、厚生労働省、公正取引委員会との連絡窓口を設置し、情報を共有化できるようにした。

日本生協連の検査センターはコロッケの中に使われている肉の量を検査していたが、「まさか牛肉以外のものが使われている」とは考えていなかった。日本生協連も被害者ともいえるが、日本生協連の山下俊史会長(当時)は本紙の取材に「本当の被害者は組合員、消費者」と自らを厳しく責めていた。

●健康被害で捜査も

07年10月と11月に、日本生協連のPB商品の冷凍ギョウザで妙なことが起きた。10月には東北の物流センターで異臭騒ぎがあり、また、コープあいづでは実際に冷凍ギョウザを購入したパート職員が「味が変」と口の中に入れただけで食べなかった。日本生協連はパート職員が口に入れた当該品を分析し、保管してあった同じロット番号の商品も試食したが、「物流による事故」と判断していた。年が明け、08年1月、実際に食べた千葉県の組合員が体調を崩した。保健所が調査、千葉県警も捜査に乗り出した。原因は冷凍ギョウザで、その中に農薬で使われるメタミドホスなどの混入を把握した。

千葉県警の担当者は日本生協連の検査センターの以前の分析結果である波形を見て、「メタミドホスが混入した同じ案件」と見抜いた。

日本生協連などは、物流センターなど混入の可能性のある場所をすべて調べたが、原因は分からなかった。「中国の工場で混入」と予想していたが、2年後に委託先である中国の天洋食品の元従業員が意図的に混入させたことが判明した。犯人は中国で罰せられた。

日本生協連には責任はあるが、非はない。第三者委員会を設置し、問題のある工程を洗い出した。当時、PB商品であるコープ商品は約6000アイテムあったものを4000アイテムにまで削減し、製造工場の監査の頻度を高めるなど管理体制を大幅に強化した。

◇BSE対策は見直し 「リスク評価」で議論

日本国内でBSE感染牛が確認され、牛由来の肉骨粉を牛に与えない飼料規制、全頭検査を実施し、食品安全委員会を設置した。しかし、設置してほぼ半年しかたっていない03(平成15)年12月に米国で感染牛が確認された。日本では全頭検査を義務付けていたため、米国からの牛肉の輸入再開に多くの時間がかかった。

米国産牛肉の輸入禁止から再開までには、食品安全委員会が承認した上での国内のBSE対策である全頭検査の緩和、米国が日本の基準に合わせた日本向けの輸出プログラムの作成、それを委員会が認める手続きが必要だった。自国の手法にこだわる米国と日本の協議もまとまるまでに時間がかかり、食品安全委員会自体の動きも遅かった。

国内BSEは行政機関にも問題があるとして、食品安全のためにコーデックス委員会が推奨しているリスク分析の考え方を導入。リスク評価機関(食品安全委員会)を、リスク管理機関(厚労省、農水省など)から独立させた。微生物を制御する手法、残留農薬の基準などについて厚労省や農水省から依頼を受けて、それを科学的知見で評価していく。また、こうした委員会や各省庁の審議会も原則として公開するなど透明性の確保を目指した。

BSEなどを検討するプリオン専門調査会は米国の実態などの報告を受けてはいたが、BSE問題は生体牛の流通、と畜場の実態、飼養管理など幅広い分野の科学的知見が必要なことから、04(平成16)年4月の委員会の会合で情報収集し、その知見を委員会で共有化していくことを決めた。農水省や厚労省の諮問がなくても、食品安全基本法で決められている「委員会による自ら評価」と位置付けた。一部のメディアは米国からの「輸入再開に向けて検討」と報じたが、それ以前の段階だった。

04年9月には国内対策についての中間取りまとめを行って、「(過去の検査結果を踏まえて)少なくとも21ヵ月齢以上の牛では、BSE感染を確認できる可能性がある」と微妙な言い回しにした。行政機関の慣習として、他の組織の規制が緩すぎる場合には強化を求めるが、緩和は要求せず、それに倣った。

●論争の難しさが壁に

世界的に見ても検査は疾病の蔓延(まんえん)状況を把握するための方法で、特定危険部位の除去徹底が一番重要だ。農水省や厚労省は、「消費者の不安を払拭(ふっしょく)するために、全頭検査は方法の一つ」と位置付けていたが、まず21ヵ月齢以上は検査(20ヵ月齢以下は検査しない)で委員会に諮問、国内対策の見直しから手をつけた。委員会は05(平成17)年4月には、検査対象を緩和してもリスクは変わらないと結論づけた。

米国は、日本向けに20ヵ月齢以下の牛に限定した輸出プログラムを提案。同年5月には、厚労省が20ヵ月齢以下の米国産牛肉についてリスク評価を諮問。国内対策と、同等かどうか判断を求めた。「米国産を輸入するための結論」といった批判も寄せられていた。

プリオン専門調査会は10回に及ぶ会合を開き、リスクに差がないと判断。食品安全委員会が05年12月に答申した。その後、国内対策の検査月齢を変えながら、米国産牛肉の本格的な輸入再開に進んでいった。

「自ら評価」「国内対策の見直し」「米国産牛肉のリスク評価」での議論は、「学会の論争のような面」もあった。科学的なリスク評価は科学者であっても難しく、それを伝えるメディアも、情報を受け取る業界・消費者も慣れていなかった。

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