令和の食品産業特集

令和の食品産業特集:新時代展望=健康増進 第3次の「機能性」の役割大

特集 総合 2019.08.24 11929号 09面
食を通じた健康増進は国民生活の豊かさに直結する

食を通じた健康増進は国民生活の豊かさに直結する

超高齢社会の中、エネルギー摂取の面で重要となる食用油

超高齢社会の中、エネルギー摂取の面で重要となる食用油

◇国民生活の豊かさに直結

令和時代、食が果たすべき役割は従来以上に大きく変ぼうする。超高齢社会の中、これまで食の根幹をなしてきた「栄養」「し好(おいしさ)」に続く第3次機能として、「生体調節機能(機能性)」が大きく注目されている。食は生きる上で最も不可欠なものであり、仮に人生を80年と考えた場合、8万5000回以上の食事をわれわれは楽しみ、取る。それだけに生きるための“栄養”、生活を豊かにする“おいしさ”はもちろん、食の健康増進につながる“機能性”が果たす役割は非常に大きい。制度(認可・登録)型健康食品を中心に平成時代における健康関連食品を回顧するとともに、令和時代における社会的重要性、取り組むべき課題を探る。(村岡直樹)

●トクホ制度で売場確立

食を通じた健康増進は、国民生活の豊かさに直結する。国内では2007年、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)が21%を超え、高齢化社会・高齢社会から超高齢社会に移行。政府の19年度高齢社会白書では高齢化率は実に28%、75歳以上人口は65~74歳人口を上回り、総人口に占める割合は14.2%に達している。2065年には約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上となり、令和時代はまさに“目に見える”形で高齢化が進行することになる。

かつてない人口構成の変化の中、健康志向がさらに加速し、食を通じた健康増進は間違いなく重要性を増す。制度型の健康食品である栄養機能食品・特定保健用食品(以下トクホ)・機能性表示食品の合計規模は年々拡大を継続。認可型以外でもヨーグルトや食用油、玄米や豆乳などは、健康目的での継続摂取が浸透しつつある。ここでは栄養機能食品・トクホ・機能性表示食品の制度型健康食品に加え、健康性を価値訴求の主軸に据える食品(一部サプリメント含む)を健康関連食品とする。

社会的な枠組み制度の側面から見た場合、平成時代の健康関連食品でポイントとなったのは、1991(平成3)年からのトクホ制度の運用・浸透と、2014(平成26)年からの機能性表示食品制度にある。

そもそも健康に関する食品市場が形成され始めたのは、1960年代後半からといわれ、諸説あるが、中高年向けコレステロール訴求と、栄養食をベースとするシニア向けの健康生活提案が契機とされる。

両制度、特にトクホの最大の功績は、これら“ある程度まで”顕在化していた健康食品へのニーズや健康志向を、売場の“完全確立”にまで導いた点に集約される。認可商品としての信頼感をベースに食の健康増進を後押しし、食品産業に新たな市場を創造させた点は非常に大きな意義を持つ。また、両制度の存在があるからこそ、現在のような巨大市場が形成されたと言っても過言ではない。

トクホは国が健康強調表示を許可・承認する独自の制度として発足。国際的に注目を集めた中、市場規模は99(平成11)年に2000億円を突破すると、わずかその2年後の2001(平成13)年には倍増となる4000億円に到達する。さらにサントリー「黒烏龍茶」(06年度年日本食糧新聞ヒット大賞)などのメガヒット商品が誕生したことで、トクホそのものへの認知が拡大し、これに伴い支持も高めた。ピーク時の07(平成19)年には約6800億円にまで成長し、11(平成23)年には東日本震災の影響で大きく落ち込んだが、13(平成25)年からは毎年6000億円台を維持している。

5年目を迎えた機能性表示食品は、発足当初こそ受理品数の少なさが指摘されていたが、17(平成29)年から大きく品数が増加。18(平成30)年はメーカー出荷ベースで1900億円(本紙推定)に到達し、届出登録数も2000件を大きく突破している。目玉だった生鮮分野でも登録商品が着実に誕生、さらに缶詰や冷凍食品などトクホにはない加工食品分野での商品化も堅調で、より食卓に身近な健康関連食品として位置付けられる。

●戦略分野として商品開発

両制度に共通するのは、参入メーカー(団体)がすでに戦略分野としての商品開発を敷いている点にある。継続利用に耐え得るおいしさや簡便性はもちろん、健康ニーズを探るマーケティング、既存ブランドの世界観を生かした商品展開などが高いレベルで行われ、これがさらなる支持を集める要因となっている。

また、特定の栄養成分補給のために利用される栄養機能食品は01(平成13)年からスタート。厚生労働省の設定基準を満たせば食品衛生法に基づき表示が許可されるもので、主にビタミン類、ミネラル類などが主流となっている。トクホと異なり認可は必要なく、含有成分や摂取量を表記することで生活者に健康価値を“分かりやすく”提供、サプリメント軸に売場を構築している。

これらを総括すると、平成時代の食の健康増進分野の躍進は、顕在化しつつあった高齢化や健康志向に対し国の枠組み制度がプラスに働き、これをメーカーの技術力・開発力が後押ししたことが一大ジャンル化につながったといえる。

●健康ニーズが多様化

超高齢化が加速する令和時代では、健康に対する価値観や定義、さらにはニーズそのものが刻一刻と変化することが予想される。健康寿命や生活習慣病予防はもちろん、現在注目を集めるスポーツを通じた健康的生活、五感維持を前提とした豊かな暮らしなど、生活者、特に高齢者が求める健康生活の在り方が、従来以上に多様化するためだ。

超高齢社会下での健康寿命化の実現は、生活者はもとより、言うまでもなく国内全体の成長・発展にも通じる重要な課題だ。その中で重要性を増しそうなのが、未病(健康と病気の間の状態)の認識と、健康状態での食を通じた健康増進だろう。前者は病気(機能低下)を、後者は未病状態のリスクをそれぞれ低減させ、疾病・身体機能低下に対し、二重での防止策を張れることになる。

健康関連食品には多くの期待効能と関与成分が存在するが、例えばトクホでは整腸(おなかの調子を整える)と中性脂肪・体脂肪の両者で8割以上を占め、超高齢社会の中で健康寿命を実現させるために重要性を増しそうな血圧、骨・ミネラル、歯などはボリューム面で停滞傾向にある。平成時代でのトクホの認知浸透を鑑みると、これらの期待効能を持つヒット商品(定番商品)の登場は高い意義を持ち、また、将来的な有望市場として考えることもできるだろう。

また、20(令和2)年を起点にさらに注目を集めそうなのが、スポーツを通じた健康的生活だ。すでにロカボ志向などと連動する形で、非制度型食品(低糖質・高タンパク)が市場を構築しつつあるが、同分野は今後、シニア層を含めた全国民での需要増が見込まれる。

中性脂肪・体脂肪を核とする既存の制度型健康関連食品はもちろん、例えばエネルギー源としての食用油や、体内から身体を磨く乳製品・飲料関連などは高いポテンシャルを持ち、有力分野として見ることができる。

●生活者・提供者・販売者で高い意識を

一方で、食の健康増進が真に意義を持つためには、参入メーカーや小売などによる競合や垣根を越えた啓蒙(けいもう)活動が前提条件にある。例えば制度型健康関連食品の正しい知識啓発は長く課題視されており、特に機能性表示食品の自己責任の考え方はいまだ浸透しているとは言い難い。報道を契機とするブームの凹凸は、生活者がいかに情報を得られていないかを裏付けるものとしても捉えることができる。

また、健康ニーズの細分化により、新たな認可(または登録制度)が健康関連食品で施行される可能性も十分ある。制度自体の信頼感を損なわないためにも、参入企業は徹底して基準や認可を順守する義務がある。含有成分未達での取消処分や、広告表現での行政処分などが平成終盤に散見されたことは記憶に新しい。食の健康増進は、食への信頼感が重要な屋台骨となることは間違いない。生活者・提供(製造)者・販売者の3者がいずれも高い意識を持つことが、実は最大の課題ともいえるだろう。

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◆躍進する非制度型食品

健康に対するニーズや価値観が多様化する中、非制度型の健康訴求食品も今後さらに躍進しそうだ。平成後期から台頭するスーパーフード、健康価値で脚光を集めるシリアル(グラノーラ)、食用油、ヨーグルトなどはすでに高いレベルで浸透しており、令和時代でも当面は浸透が見込まれる。

シリアルは爆発的ブームの反動で近年減少傾向が続くものの、朝食の重要性に対する認知の拡大や優れた健康価値を背景に伸長に十分な素地を持つ。「朝プロテイン」(日本ケロッグ)などは運動連動との健康志向の流れにも対応し、市場拡大に機能しそうな気配にある。

プラスオンでの市場拡大を見せた食用油は、アマニ油・エゴマ油・こめ油などが台頭。最大の特徴はそのまま使う“生食”が市場全体に波及した点で、エネルギー摂取が重要となる超高齢社会では、今後さらに重要性を増すことは間違いない。

飲料と並ぶトクホの主役格・ヨーグルト(乳製品)は、健康目的の摂取が浸透から定着に移行。これに伴い食卓の必需品としての位置付けを確保している。一服感のある中でターゲットを明確化した健康訴求が進んでおり、再度の拡大も射程圏内にある。

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