令和の食品産業特集
令和の食品産業特集:新時代展望=調理の担い手 食の外部化8割時代
◇人手不足も多面的役割に期待
日本の一般世帯における家族類型別割合を見ると、夫婦と子の世帯は1980年には42.1%が2035年には23.3%に大きく減少する一方、単身世帯は19.9%が37.2%と大きく増加することが見込まれている。その結果、外食および加工食品(惣菜含む)、生鮮食品別に食料支出の構成割合を見ると、全世帯において1990年の支出における生鮮34.4%、加工食品43.0%、外食22.6%は2035年にはそれぞれ20.4%。58.9%、20.7%と、生鮮食品から家庭内で調理する内食対加工食品(惣菜含む)と外食による調理の外部化比率は34.4%対65.6%から20.4%対79.6%と約8割が調理の外部化となることが予測されている。食の外部化比率8割の時代に、人手不足という最大の課題を抱えながらも、調理の担い手には食文化醸成、食育など多面的な役割での活躍が期待されている。(福島厚子)
●大量調理・工場製品の安全強化
厚生労働省発表の2018年原因施設別食中毒発生状況(表)を見ると、患者数が多いのは飲食店、次いで仕出屋で、1事件当たりの患者数が多いのは集団給食と仕出屋である。家庭においては163件の報告にとどまっている。しかし、死亡者3人の全てが家庭の食中毒によるものであり、調理機会が減少していることや冷蔵庫・冷凍庫の過信、山菜や魚介類など自己調達による毒性由来の飲食など、注意喚起はますます重要となる。大量調理現場においては近年、事件数・患者数が減少傾向にあるとはいえ、年間1万7000人が食中毒を起こしていることは事実で、これまで以上の衛生管理が必須である。
こうした中で、厚生労働省は製造・加工、調理、販売などを行うすべての食品など事業者を対象として、HACCP(危害要因分析重要管理点)による衛生管理の制度化を進めた。18年6月に食品衛生法の大改正が15年ぶりに行われ、HACCPの制度化や食品リコールの報告義務化、健康食品の規制強化など大きな見直しが図られることとなった。この法改正に伴い、制度化に際しては食品等事業者は一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理のための計画を策定することとしており、厚生労働省ではホームページに日本フードサービス協会や日本惣菜協会など各団体の小規模向けHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書を提示し、無料で使用できるようにしている。
●食育基本法で包括的に健康促進
生活者は単身世帯が多くなり、調理の外部化率は高まっている。しかし、最終的に喫食するのは、個々人である。複数人の家族単位で食生活が営まれている場合は、「お母さん」もしくはそれに代わる第三者が健康に留意した食事を工面・工夫してくれた。しかし、単身世帯が多くなると、それぞれが自身の健康に配慮した食事を取らなければならない。
さらに、日本の食をめぐる状況の変化に伴い、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むための食育が緊要な課題となっていることから、05(平成17)年に食育基本法が制定された。厚生労働省では、その計画の中で、専門職の育成として専門調理師や調理師の養成を図り、団体による多面的な活動の推進に取り組むとともに、食事作法や伝統的な行事食など、わが国の豊かな食文化の醸成を図るため、高度な調理技術を備えた専門調理師や調理師の活躍が期待されているとしている。
特に日本の食文化は、日本の国土に根差した多様な旬の食材を使用し、栄養バランスに優れた食事構成や食事の場における自然の美しさの表現、年中行事との密接な結びつきといった特徴を持つ優れたものであることから、ユネスコ無形文化遺産への登録申請が行われており、こうした食文化の継承に調理師が担う役割は大きいと言及している。
16年から20年までの「第3次基本計画」は、第2次基本計画の際にコンセプトとした「『周知』から『実践』へ」を引き継ぎ、「『実践』の環を広げよう」をコンセプトとし、(1)若い世代を中心とした食育の推進(2)多様な暮らしに対応した食育の推進(3)健康寿命の延伸につながる食育の推進(4)食の循環や環境を意識した食育の推進(5)食文化の継承に向けた食育の推進–の5点を重点課題として挙げ、包括的な健康促進に取り組んでいる。
これら五つの重点課題に取り組むに当たっては「子どもから高齢者まで、生涯を通じた取組みを推進すること」や「国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティアなどが主体的かつ多様に連携・協働しながら食育の取組を推進すること」の二つの視点に十分留意する必要があるとしている。
●求められる外国人受け入れ配慮
業界の最大の課題は人手不足である。工場、セントラルキッチン、店舗とすべてにおいて人手不足であり、15年から惣菜業は外国人技能実習生制度が導入され、19年度は惣菜業の試験を受ける受験生が1万7000人超えと予想されている。
加えて、19年4月から外国人による特定技能制度もスタートし、4月には外食で外国人の試験と同時に受け入れが始まり、秋には惣菜業も始まる。
食を提供する「作り手」に外国人が増えることで、衛生面の指導や調理技術などの全体的な向上にはこれまで以上の配慮が求められる。
◇担い手を育てる認定制度
●料理マスターズ=料理マスターズは農林水産省が10年度に制定した料理人顕彰制度で正式名称は「農林水産省料理人顕彰制度」。料理人と第1次産業を結び付けて地方の活性化に貢献するとともに食品産業などと連携して地域の活性化や日本の食文化の発展に貢献することが目的。
料理マスターズも回を重ね、受賞者は計57人となった。質の高い日本の食材を追求し、超一流の技術によってその食材の魅力を生かした料理を提供するとともに、食材生産者と協働して地域の魅力を高めることに励んでいる。料理マスターズ受賞シェフの料理を食しに遠方から彼の地に出かけ、食事とともにその地の伝統や文化にも親しむという食の楽しみ方が少しずつ浸透してきている。
●治療食等献立・調理技術コンテスト=日本メディカル給食協会が1994年から2年に一度全国で開催している。病院や福祉施設などの食事のレベルアップを目指して厚生労働省、全日本病院協会などの後援で実施。治療食の自己負担増や、従来のカロリーや塩分など数値重視の給食から味覚と技術も磨こうというもので、病院・介護施設での給食が直営から外部委託化へ加速している現状を踏まえ、コスト、クオリティーとともに献立・調理技術の向上が求められていることに業界全体で対応している。
病院における治療食は多種多様となり、給与率も年々増加、献立作成や調理に高度の知識や特別の技術が要求される。同コンテストは全国的規模で実施、会員各社の治療食献立作成および調理技術のさらなる向上を図るとともに、病院関係者はもとより一般の理解と認識を深めている。
●惣菜管理士=日本惣菜協会が惣菜は調理加工せずにそのまま食される食品であることから、製造・流通・販売の際の安全性の確保が非常に重要で、消費者に安全・安心な惣菜を届けるためにも業界の人材育成を重要な事業として「惣菜管理士養成研修および資格試験」を行っている。
食品に関する基礎から専門知識までの高度で総合的な知識習得を目的に、1993年から認定をスタート。約2000社、2万6000人以上の惣菜管理士が全国の惣菜企業をはじめ、食品メーカー、流通、機械・器財・包材メーカーなど、食を取り巻く幅広い分野で活躍している。
同協会は、「惣菜を作る人」向けとして「惣菜管理士」、「惣菜を売場で接客する方」向けとして「デリカアドバイザー」、「惣菜を食べる方」向けとして「ホームミールマイスター」の教育事業を行っている。「ホームミールマイスター」は、日本惣菜協会のホームページから問題をダウンロードして独学できるようになっている。
日本惣菜協会では、作る人、販売する人、食べる人がそれぞれ知識を持って豊かな食事を培ってほしいと教育3事業を行っている。
●食品微生物検査技士=日本べんとう振興協会は、「食品微生物検査技士」が消費者の健康増進に寄与する役割を果たすために、05年からわが国唯一の制度としてスタートした。協会会員はもとより、大手食品メーカーをはじめ食品を取り扱うさまざまな業種に携わる企業や学生が毎年受講し、約1800人の合格者を輩出している。1、2級の検査技術研修では、検査実務に必要なきめ細かな技術を習得することができ、熟練者の研修としても評価されている。
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