令和の食品産業特集
令和の食品産業特集:新時代展望=新需要・新価値創造 時短や簡便傾向進む
◇健康や味覚で付加価値を
日本の食シーンは近年、大きく変化している。少子高齢化に伴う人口減少や核家族化、夫婦共働きなど家族構成と世帯収入構造の変化で家庭における調理時間は減少し、簡便性が求められている。一方で、世界の食のトレンドはIT(情報技術)の普及によるグローバル化や健康、サステナビリティーといった言葉をキーワードとして新たなトレンドを築いている。新たな価値、新たな需要を生み出すことはたやすくないが、日本と世界に分けて、これからのトレンドを考えてみる。(高木義徳)
日本の直近の食のトレンドといえば、時短や簡便化といったキーワードだ。例えば、カット野菜は平成の初めごろに販売が始まったが、長らく売上げは伸び悩んだ。しかし最近の10年ほどで市場は急速に拡大し、現在では家庭用と業務用を合わせて8000億円規模に達しているともいわれている。これには、カット野菜の鮮度保持の技術向上などで消費者の不信感が払拭(ふっしょく)されたこともあるが、消費者の時短や簡便調理志向の高まりが大きいといえる。
また、メニュー調味料も以前から存在した麻婆豆腐などの中華系メニュー調味料に加え、03年にキッコーマンが「うちのごはん」を発売して以降、メニュー専用調味料は和洋中とさまざまなメニューで広がりを見せている。シーズニングスパイスも同様に家庭では作りにくいメニューを簡単に作ることができ、副菜の和洋中の各メニューができる商品として新たなジャンルを確立しつつある。
業務用でも、ベテランの調理人や人材確保が困難となりつつあることから、一つのソースで味が決まる万能調味料が人気を集めている。カット野菜や精肉と調味料が一つになったミールキットも現在のところ、その価格設定に問題があるといわれているが時短、簡便化の流れに乗り、成長していく可能性を秘めている。
健康というキーワードも変化をとげ、単純なダイエットから体作りを志向したプロテイン摂取や糖質オフが現在のトレンドとなっている。
また、味覚面でも新たな需要が生み出されている。ごく最近では「しび辛」ブームが拡大している。当初は外食の汁なし担担麺やしびれを強調した麻婆豆腐など主に外食メニューで広がりを見せた。続いて、惣菜や冷凍食品などに広がり、現在ではパンや菓子などにまでその勢いは拡大している。
日本食糧新聞社新製品研究会が運営する新製品情報サイト「食@新製品」で花椒(ホアジャオ)をフリーワード検索した結果、17年で56品、18年で73品、今年は9月1日発売までで95品がヒットした。このように、花椒を用いた新製品は現在も増え続けている。また、単品香辛料の花椒やサンショウも、拡大傾向にあり、外食から中食、菓子などの加工食品から日常の食卓にまで「しび辛」は浸透しつつある。このような味覚の新たな需要は、ある程度成長すると落ち着き、次の流れに移行することが多かった。
ただ、この「しび辛」ブームは長期にわたり継続し、現在も拡大していることから長期的なトレンドとなるかは注目されるところだ。
今後の日本国内の新需要や新価値を考えると、日本の人口減が続くことにより、労働力の不足や不透明な経済環境などから、調理時間が増加していくことは考えにくい。つまり、時短や簡便性といったキーワードは今後の商品開発においても重要なポイントとなるだろう。
これを突き詰めていくと、一つの加工食品で手軽に栄養やエネルギーを摂取できることに行き着く。米国などでは一時期、粉末飲料の完全栄養食が発売されていた。日本でも16年に「COMP」が発売されて以降、徐々に進化を続けている。
今春には日清食品が「All-in PASTA」を発売。これは栄養、簡単、量、食べ応えに加え本格的なおいしさを実現。今秋には第2弾も発売されるという。時短に簡便性、そして栄養さらにおいしさとこれらが備わった完全栄養食のような商品が長期的には市場をにぎわす可能性は否めないだろう。
●代替に集まる注目
一方で世界の食のトレンドは日本でのトレンド以上に、グローバリズムや代替食、新たな志向などで進んでいる場面が多い。日本食糧新聞社新製品研究会「月刊 食品新製品トレンド」の「最新のグローバル食品トレンド」から、19年の世界の食の傾向を探る。
食品においてもITの普及により消費者の食のグローバル化が進んでいる。世界各国の料理や外食店舗を手軽に見られるようになったことと海外旅行が身近になったことで、消費者の世界の食に対する好奇心はより旺盛になっている。
今後は食に対する目新しさや、より刺激的な体験が求められる。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発達により、これまで伝わりづらかった各国のさまざまなローカル食品が、世界中に広がり、消費者を刺激している。これがより感度の高い消費者を生み出している。
またデジタル技術の進歩は旧来にない次元で消費者と食を結びつけている。これにより、製造工程やバリューチェーンは以前よりはるかに透明性が高くなり、原料の生産地情報や栽培状況を消費者に伝えることが可能となった。より安全かつ安心な食材を求める消費者心理は強く、食品メーカーは今後も一層のトレーサビリティーや品質管理を求められることとなる。
世界的に見ると、植物性由来食品が大きく伸長している。今後はヴィーガンやベジタリアンのみならず、肉と野菜のバランスの取れた柔軟な食生活を目指す消費者がこの分野の成長を促していくと思われる。植物由来原料として、天然着色料、フレーバー(ハーブ、スパイスなど)などはますます需要が高まるだろう。
消費者は健康とサステナビリティーをより重要視していく。このため、従来以上に味や見た目にこだわった代替食品や代替原料が求められることとなるだろう。代替食品の購買決定要因は健康といわれるが、おいしさもなお追求されていく。
このようなニーズを満たす代替食品がさまざまなカテゴリーに広がっている。現在の欧米では、サステナビリティーを意識した消費者が代替食品を選ぶ傾向にあるという。“代替”は世界で着実に大きく広がっている。
また、ファイバー(食物繊維)が近年、各国での関心が高まりつつある。FDA(米国食品医薬品局)がチコリ由来のものなど新たに8種類のファイバーを認可したことが後押しとなり、ファイバーを使用した多様な食品が伸びている。
特にスポーツニュートリションの分野では、高プロテイン食品にファイバーを添加したものが数多く見られる。ファイバーは腸内環境を整えるだけでなく、認知機能や運動能力向上にも効果的だとの研究報告もある。欧米ではプロテインの次にファイバーがトレンドとなると予測する人が多く、今後の注目の素材といえる。
●間食にも健康志向
間食の持つ役割も重要性を増している。現代の多くの人々は多忙で、食にゆっくりとかける時間を持てないためだ。これまでのこってり感や濃厚なスナックの代わりに健康的なスナックが成長している。野菜や果物など植物由来原料の健康チップスが伸長していることからそのニーズの高さが分かる。
他国では食品を超えて乳製品や、スープ、スムージーなどをスナックと位置付けた商品が見られる。これまでのスナックとは違い、手軽かつ健康をキーワードとしたスナックは今後も成長が見込まれる。
原材料の分野では「クリーンラベル」という概念が世界で広がりつつある。これは体によくない原材料を使用せず、さらに原材料工程や加工プロセス、サプライチェーンなどで消費者に透明性を表す概念。日本の食品産業でも、この認知度は広がりつつあるが、国内市場に浸透しているとはいえない状況だ。今後は日本でも「クリーンラベル」の概念が広がることは予想に難くない。
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