新春特集第2部

新春特集第2部:2020年業界展望=DgS ヘルスケア重視・食補完が優位

小売 2020.01.03 11992号 20面
マツモトキヨシHDとの統合に向けて協議を進めているココカラファイン

マツモトキヨシHDとの統合に向けて協議を進めているココカラファイン

上場ドラッグストア(DgS)企業の既存店営業成績を売上高前年同月増減率で確認してみると、消費増税前の19年9月に20%増以上のプラス実績も多いが、10月に大幅な減少もある。増税前の駆け込み需要は往々にして需要創造ではなく、需要の先取りにすぎないケースが多い。まず、この増税前後のカテゴリー別販売状況を、セグメントオブワンアンドオンリー(SOO)に加盟する全国のDgS企業29社のデータから見ながらカテゴリー競合を考察したい。商品分類方法はJICFS中分類に準拠する。

●デフレ継続で効率化へかじ

増税前の9月に前年比で売上げが伸びた上位3カテゴリーは、(1)「その他食品」(乳幼児食品、健康食品など)39.4%増(2)「家庭用品」35.9%増(3)「菓子類」35.1%増だった。翌10月実績では、(1)「その他食品」22.8%減(2)「菓子類」16.3%減(3)「飲料・酒類」14.2%減だった。

駆け込み需要については、競合店舗と共有するカテゴリーについては大きく売上げが動く機会でもあり、競合店舗間や競合業態間での奪い合いになる。

増税前後に動いたカテゴリーは、「その他食品」に含まれる健康食品のほかは、基本的に食品スーパー(SM)から奪取してきたカテゴリーが多い。「菓子類」はチャネルを選ばないカテゴリーであるため、まとめ買いやついで買いが生じやすいことも影響したと考えられる。「飲料・酒類」のマイナス実績については、SMでのまとめ買いがDgSでのついで買いに影響を与えたと考えられる。

DgS業態で競争優位にあるのは健康食品と乳幼児食品を中心とした「その他食品」であるが、これは機能訴求が可能な粗利益貢献カテゴリーであり、なおかつリピート率も高いカテゴリーである。現状では、セルフ業態であるSMやコンビニエンスストア(CVS)にとっては参入しづらいカテゴリーであるが、健康食品は、そのブランドロイヤルティーがストアロイヤルティーに結びつきやすい点でも、他業態から奪取してきたDgSが逆に奪われないように死守すべきカテゴリーでもある。

小売業界では効率化へとかじが切られ始めているようである。19年10月に国内小売業界を牽引するセブン&アイ・ホールディングスが、GMS33店舗、CVS1000店舗の閉店などを進め、構造改革を決議したことを発表した。これに対してDgS業界では営業体制効率化の顕著な動きは見られない。むしろ依然としてM&A(企業の合併・買収)による規模拡大を志向する企業が多い印象を受ける。

令和に入って夏から秋にかけて、マツモトキヨシホールディングス(マツモトキヨシHD)とスギホールディングス(スギHD)がココカラファインの争奪戦を展開し、マツモトキヨシHDとの統合に向けて協議が進められている。

しかし、この統合が実現したとき、出店エリアもダウンタウンからアーバンエリアに強い2社の店舗は統廃合を進めなければならず、経営資源の再配分に焦点が当てられる。特に、マツモトキヨシHDは粗利益率を引き上げる収益モデルにシフトチェンジし始めており、それは即ちマスマーケティングからセグメントマーケティングへの転換を示唆する。つまり、高粗利商品の品揃えと店頭訴求を強化して、ローワーよりもミドル以上の顧客層をメーンターゲットとした営業施策への転換といえる。ココカラファインの意思決定材料としても挙げられているが、売価訴求型PB(自主企画)商品とともに機能訴求型PB商品を拡充するなどHBC(ヘルス・ビューティーケア)部門の強化が基本的な方向性になってくると見られている。これはDgS業態の成長要因でもあるディスカウント業態としての存在意義からの脱皮を目指すことになる。客数よりも客単価重視の収益モデルは、人口減少という商環境背景からは間違いなくフィットするが、デフレ継続環境下でどこまで追求できるかが焦点となる。

●来店頻度か客単価追求か

DgS業界は、いくつかのビジネスモデルに類型化できる。一つ目はコスモス薬品やゲンキーに代表される食品強化・売価訴求モデル。郊外立地が多く、しばしばSMと競合する。OTC医薬品(一般用医薬品)は登録販売者によって第二類医薬品を中心に販売し、販管費率と粗利益率を徹底的に抑え込むモデルである。

コスモス薬品については、SM業態を、コモディティー化が顕著な生鮮食料品店や粗利は獲得できても廃棄リスクのある惣菜専門店にさせてしまうほどの競争力がある。ローワーからミドル顧客層をターゲットとするため地域生活者をマスで広く獲得でき、売価訴求によって客数と購入点数を追求できるモデルである。同社は、九州から西日本が主戦場だったが、既に首都圏では東京の広尾、中野、西葛西への出店を果たし、今後関東への出店攻勢をかけていく。今後の焦点は関東エリアだが、今後競合するディスカウント型SMとの競争に勝てるかどうかである。安定基盤を築いているオーケーや急伸中のロピアなどの売価訴求モデルとの同質競合を注視していきたい。

対極にあるのが現在統合協議中にあるマツモトキヨシHDやココカラファインのような繁華街や駅前立地に強いHBC重視タイプである。順調に統合を果たしたとしても、前述の通り同質融合のため既存店間ですみ分けは難しく店舗の統廃合が課題となる。客単価追求でスケールメリットを生かせるビジネスモデルにできるかどうかが問われる局面にあるが、粗利益率を追求した戦略方針では、強みにすべきスケールが弊害になるケースも想定できる。

このようなビジネスモデルの場合は、繁華街や駅前立地でのビューティー系セレクトショップやバラエティーストアとの業態競合が争点になってくる。必然的に客数を犠牲にして客単価を追求するとなると、販管費と粗利益の折り合いをどうバランスさせるかが戦略ポイントになってくる。

小売ビジネスは食品カテゴリーを重視すると、ファミリーユース中心となって、低マージン・低コスト、来店頻度誘導の収益モデルになりやすい。その一方で、化粧品や医薬品カテゴリーを重視すると、パーソナルユース中心となって、高マージン・高コスト、客単価誘導の収益モデルになる傾向にある点で、これらのビジネスモデルは同じDgS業態ではあるものの直接的に競合する店舗やカテゴリーは限定的であるといえる。

●同質化戦略は奏功

しかし、現状DgS業態としての差別的優位性を確立しているビジネスモデルとして注目しなければならないのは、ウエルシアホールディングス(ウエルシアHD)やクスリのアオキホールディングス(クスリのアオキHD)、スギHDなどに代表されるヘルスケア重視・食品補完モデルともいえる融合モデルである。食品カテゴリーについては、コスモス薬品やSMほど充実した品揃えは目指さず、必要最低限かつ集客力がある食品カテゴリーに絞り込んで扱っている。概して、定期的来店が見込め、なおかつ粗利益に貢献する調剤部門の併設を前提としたフォーマットで展開することが多い。

これらのモデルは、既存客の来店頻度向上を意識しているため既存店営業成績が堅調であり、この既存店成績を実現しながら高い粗利益率をも実現している点で優れている。このヘルスケア重視・食品補完モデルは、住宅街立地にスタンドアローンで営業展開する店舗が多く、近隣住民のリピート利用が生命線になる。これらのビジネスモデルは、SMの食品カテゴリーには遠く及ばないもののCVSとは品揃えや売価設定において訴求力があるため、主にCVSと競合関係で優位にある。

そのCVSのトップランナーであるセブンイレブンが(少なくとも国内では)事業継続のために、店舗数という経営指標を絶対的指標としない方向に経営方針を変更するようである。これまでCVS、SM、DgSの3業態は最寄型業態として、生活者との「近さ」を競って出店競争を繰り広げてきた経緯がある。この「近さ」を実現するということは「多さ」を追求するということになり、アルバイトやパートの確保が難しくなってきた昨今の雇用環境では、小売業各社は従来の出店戦略を見直さざるを得ない状況に追い込まれている。

CVSとDgSの業態間競争を考えてみると、品揃えでもフォーマットでもDgSの同質化戦略が奏功しているようである。店内動線が長いSMと比較して、目的の商品売場に直行直帰できるCVSはショートタイムショッピングを実現している。これは都市部における店舗選択に大きな強みである。飲み物だけ買うとか弁当だけ買う場合にはCVSが選ばれる理由にもなっている。しかし、近年DgSの売場面積は300坪(990平方m)から400坪(1320平方m)程度と徐々に大型化してきているものの、店内動線が長くならないレイアウトを意識しているチェーンが増え始めている。そのため、売価水準では明らかにDgSが競争優位にあることもあり、CVSに対して競争優位を獲得できていると考えられる。

CVSは24時間営業を背景として社会的インフラ業態としてポジショニングされてきた。これはフランチャイズチェーン形態のため加速度的な出店が可能になり、業界の寡占化を背景として社会政策的に活用しやすいという側面があったといえるが、ここにきてフランチャイズチェーン形態が裏目に出てきたと言える。独立事業主のオーナー経営者が経営を投げ出さないためのサービス強化を余儀なくされているからである。

これに対して、DgS業界はCVS業界とは異なり、いまだにローカルチェーン主体の構造ではあるもののレギュラーチェーン形態であるため、逆に長時間営業店舗を増やすことが可能になっている。これも全ての店舗ではなく、旗艦店と呼ばれる特定の立地条件にある店舗のみ長時間営業に転換し始めているのである。しかも、薬系チャネルとしての調剤応需・OTC販売から食系チャネルとしての品揃えまでを拡充しながらのサービス拡大であり、30~40坪(99~132平方m)で展開する食系チャネルであるCVSは厳しい競合環境に追い込まれていると考えられる。

(東京経済大学経営学部・本藤貴康)

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