新春特集第2部

新春特集第2部:2020年業界展望=食品卸売業 大きな試練の年に

卸・商社 2020.01.03 11992号 02面

いよいよ東京2020大会が開催される2020年は、食品卸業界にとっても大きな試練の年となりそうだ。インバウンドはじめ多くの需要出現の好機が見込める一方、首都圏で長期間実施される交通規制への物流対応、大会終了後の景気や需要の反動減など、山積みの課題へ直面する。6月のキャッシュレスポイント還元事業が終了以降、市場競争へいかなる影響を及ぼすかも不透明感が強い。少子高齢化と労働力不足が構造問題として重くのしかかる中、メーカーのリードタイム延長の急拡大やポイント還元事業に端を発する小売市場のデフレ競争再燃など、新たな難題が次々と待ち受ける。卸は変化対応業の本領発揮で相次ぐ課題を克服し、より的確な成長戦略を実行していくことが求められる。

●チャンスとピンチ混在

昨年の卸業界の動向を大手総合卸7社の18年度業績から見ると、日本アクセスを除く全社が増収で着地し、経常増益は一昨年同様の5社をキープした。コンビニエンスストア(CVS)やドラッグストア(DgS)をはじめとする有力チェーンとの取引拡大、各社が注力する低温関連事業などの伸長で規模拡大を継続しつつ、粗利の改善やコストの抑制に一定の成果を得た格好だ。ただ、物流費の増大で収益力の低下に歯止めがかからず、規模拡大に見合った利益水準への回復は足踏みを続けている。

総合商社系列の有力チェーンの取引集約や再編を含む小売業界の上位集約化などの動きに伴い、卸業界でも同様の構造が進む。18年度は加藤産業の大台突破で1兆円卸が4社となり、7社合計の売上高は9兆9065億円(前年比1.9%増)と10兆円に迫る勢いだ。

同年度に唯一0.3%の微減収となった日本アクセスはファミリーマートの統合による店舗減で構成比29%を占めるCVSが3.4%減となったためだが、最大構成比のリージョナル食品スーパー(SM)をはじめナショナルチェーンやDgSなど他の業態は前年実績を超えた。経常増益となったのは三菱食品、日本アクセス、国分グループ本社、加藤産業、三井食品。深刻な人手不足による物流費の上昇が続く中、各社ともRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用による事務コストの削減、得意先小売業に物流サービスレベルの緩和などを交渉し、販管費の低減に努めている。

一方で価格より機能が優先される低温領域への対応強化などで粗利の改善に努め、18年度は増益基調を維持した格好だ。ただ、販管費の最大構成比を占める物流コストの抑制には苦慮しており、粗利の改善成果を相殺される構造が続く。18年度に経常利益率1%を超えたのは、引き続き加藤産業のみとなった。改正酒税法施行による収益改善効果も含め、経常利益率1.14%の高数値を確保した。他の大手卸では日本アクセスが0.92%と1%へ最も近い距離にあるが、7社平均の経常利益率は0.72%と、前年より0.01ポイントの後退を強いられる厳しい情勢だ。

昨年はわが国にとって改元の節目であり、これに伴う酒類など関連商品の特需も一部発生。5月の異例のゴールデンウイーク10連休は物流問題も懸念されたが、大きな混乱もなく乗り越えた様子。9月には消費増税前の駆け込み需要が酒類を中心に発生、ラグビーワールドカップ(W杯)の全国的な開催で飲食需要も活気づくなど、消費面ではいくつかの好材料にも恵まれた。

ところが、そうしたプラス要素をあっけなく吹き飛ばすようなコスト環境の悪化に業界は苦慮している。20年3月期の大手全国卸4社の第2四半期業績(19年4~9月)は増大する販管費を吸収しきれず、2桁台の大幅減益を強いられた企業も目立つ。

各社の上期業績における販管費率の状況を見ると、三菱食品(0.03ポイント減/6.29%)、三井食品(0.13ポイント増/9.08%)、伊藤忠食品(0.04ポイント増/4.83%)。日本アクセスは販管費率は非公表だが、額では前期比1.3%増としており、総体的にコスト環境が悪化。その背景にあるのは、いうまでもなく昨今の労働力不足による配送費や庫内費など物流コストの高騰だ。

三菱食品は上期の自社物流費に関しては計画通りに下げたため販管費率は改善したが、得意先専用拠点向けのセンターフィー上昇による売上原価の増加を受け、営業減益を強いられた。

日本アクセスも上期は、物流のBPI管理の徹底や得意先チェーンとの配送頻度の最適化などで改善成果は得たものの、それを上回る物流事業者からの値上げを吸収しきれない状況だ。

三井食品は増収に伴う物流経費の大幅な増加が収益に影響。伊藤忠食品は夏場の天候不順や一部帳合変更の影響で減収となり、売上総利益率・販管費率とも前年比では悪化した。ただ、いずれも想定内の数値に収めたことで、上期は利益面では計画を上回る着地となった。

一向に歯止めがかからないコスト環境の悪化に対し、各社とも下半期の重点課題に物流費の抑制を挙げる。庫内作業の省人化・自動化など最新テクノロジーを活用した個社の努力に加え、同業間での共同配送など業界連携による物流合理化を模索していく。

●メーカーのリードタイム延長が負担増に

一方で昨年来、メーカー間で卸への納品リードタイム延長(受注翌日納品→受注翌々日納品)の動きが広がるなど、川中の業務負荷が増大する要素が表面化。リードタイムの延長は卸に在庫の積み増しや倉出し物流の増加といったコスト負担をもたらすため、「数年前にあるNBメーカーが(受注翌々日納品について)言っていた時は、そんな動きもあるのかという程度に受け止めていたが、今は大手から中小へ一気に増え、在庫の持ち方が変わりコスト上昇に苦慮」(地域卸)、「これまで生産性の改善を第一にコストを抑えてきたが、リードタイム延長で在庫が増え、生産性が大きく悪化。物流費だけでなく庫内費もアップしている。物流費が上がっているのはメーカーだけではないのに」(大手卸)といった不満も聞こえてくる。

卸は在庫の積み増しへ拠点の増床なども検討しなければならない局面にあるが、リードタイムを延長してもASN(事前出荷情報)の活用で検品レスを実践し、卸拠点への入荷業務を顕著に合理化した先行大手NBの成果事例もある。

こうした情勢を受け、昨年は日本加工食品卸協会(日食協)がリードタイム延長に伴う業務合理化への要望書をメーカー・小売業へ提出する動きも。今後、この問題を前進させるにはメーカーから卸への入荷をより効率化できる仕組みを整備するとともに、卸から小売業への納品回数や納入時間・形態といった物流与件の緩和も含め、サプライチェーン全体で議論・取り組むスタンスが不可欠だ。

●五輪伴う交通規制対応急務 継続的成長へ問われる戦略

今年の食品業界における最大のヤマ場は、7~9月に開催される東京2020大会に尽きるだろう。大会期間中および前後は世界各国から約4000万人が訪日するとみられ、インバウンド需要をはじめ競技場・家庭内での観戦需要など、多様なシーンで酒類や飲食料品の消費が増えると想定される。

一方で大会期間中の円滑な車両移動などを目的に、首都圏の26大会競技場・20エリアで大規模な交通規制が実施される。競技場の集中する首都圏臨海部にはメーカーの低温拠点が数多く存在する上、都内には路面店のSMやCVSも多く、卸がこれらの店舗へ平常通りに商品供給できるか、懸念材料となっている。

日食協は卸各社がメーカー・小売業と商品仕入れや店舗納品に関わるBCP(事業継続計画)を策定すべく呼びかけを強化しており、大会開催まで7ヵ月を切った現在、早期に対応を進めることが重要な局面だ。

大会直前の6月にはキャッシュレスポイント還元事業が終了し、政府がマイナンバーポイントをはじめ、追加施策も視野に入れているが、現状ではその効果は不透明。秋以降は大会終了による需要の反動減、ポイント還元効果の消失による消費の冷え込みも想定され、食品流通がより過酷な体力勝負へ突入していくことも懸念される。

こうした環境与件をしのぎつつ、卸業界が継続的成長を果たすために、個々の戦略のあり方も問われる一年となりそうだ。物流費の上昇と小売業の見積もり合わせの増加を背景に、既存卸事業を取り巻く収益環境は厳しさを増している。

少子高齢化や人口減少、変わり続ける生活者のライフスタイル、ネットとリアルの融合といった市場の変化を的確に捉えて、新たなビジネスモデルを構築することが求められる。

三菱食品がネットとリアルの融合、キャッシュレス社会の進展を見据えて小売業へ提案する「日本型ニューリテール」、伊藤忠食品が今年からの5G(第5世代移動通信)提供開始で変わる市場を捉えた動画メディアとの提携戦略など、川中発の新たな事業モデルも登場してきた。

日本アクセスが高度な情報卸構想を打ち出す一方、伝統的な乾物メーカーを組織化(AK研)してネットや外食などの販路拡大に乗り出した試みも付加価値性がある。

今年で推進中の第10次長計が終了する国分グループ本社は同計画で地域密着と低温対応に成果を示し、大規模3温度帯拠点の全国配備を完了。昨年のラグビーW杯ではこの機能が評価され、全国の競技場へ酒類を供給する役割を果たした。東京2020大会の成功に向けても、卸の任務を全うしたい考えだ。

加藤産業は国内の人口減少に対応し、海外戦略を積極化している。昨年12月にはマレーシアで新たに現地企業を買収し、同国最大の卸グループ基盤を確立。今後、海外の各拠点を利用してASEANを面で押さえる戦略を展開するという。

三井食品は下期の重点として「卸としての原点回帰」(基本の徹底)へ努めつつ、魅力ある商品を売り込む卸の本業を重視。特に輸入酒類などで高い実績も持つため、グローバル対応の強化によって商品施策における独自色をより強固に打ち出したい狙い。

トモシアホールディングスは産学連携やエリアの中小零細顧客への商品供給の継続など「地域」に軸足を据えた生き方をより鮮明に追求。併せて競合大手が採算性などから手の出せない外食市場や製造分野を深耕し、独自の成長領域に位置付ける。昨年12月にはベトナムで水産加工を行う関係会社の新工場も竣工し、業務用向けなどに供給力を強化。既存卸事業の規模は維持しながら全体利益の底上げに寄与させていく。

(篠田博一)

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