新春特集第2部
新春特集第2部:2020年業界展望=業務用食品卸 生鮮・素材が差別化の鍵
19年は、2月・関東食糧(埼玉県)が新物流センター「食空間創造Base」竣工、4月・日本外食流通サービス協会(JFSA)に首都圏初の会員として久世(東京都)が加入、11月・ニッカネ(栃木県)が西東京営業所を開設したことなどが主立った動きだった。北関東ではウルノ商事(茨城県)が新つくば支店の20年の稼働、三和(茨城県)が千葉県酒々井(しすい)町に千葉支店開設準備を進めるなど新営業拠点の開設を精力的に進めている。また、JFSA会員のオーディエー(大阪府)は子会社の関東食材(横浜市)を今7月期中に東日本支社へと支社化する。首都圏において他の共販団体などとの熾烈(しれつ)な競争が幕を開けそうだ。だが、4月に新食品表示法へ完全移行され、PB(自主企画)商品の在り方が大きく変わることも予想される。価格対応の武器なのか、各団体(企業)の個性なのか、メーカーの思惑も含めて進化・深化した形での競争になりそうだ。
●進化・深化するPB競争
「人手不足」「物流費の高騰」「働き方改革」は全産業の悩みでもあるが、食材を飲食店などに届けるというマンパワー型産業である業務用食品卸におけるその悩みは深く、解決への糸口は見えない状況だ。その結果として増収減益基調が続いている。そこから抜け出すために各社・団体とも利益確保が見込め、ほかにはないPB商品の開発へ注力していくだろう。
だが、加工食品だけでは差別化への限界がある。業務用食品卸が積極的に推進しているのは「生鮮強化」だ。高齢化からニーズが増えている高齢者施設給食はロットが細かく、物流効率が悪いため、業務用食品卸が得意とする加工食品だけでなく、生鮮、日配品、非食品までも一括で物流することで効率化を進めてきた。外食においても人手不足から発注の一括化のニーズが高まり、業務用食品卸が狙うインストアシェアアップになることから「生鮮強化」が進んでいるのだ。
生鮮品は、加工食品とは保管・物流の温度帯が異なる。これを軌道に乗せるための機能が、今後の業務用食品卸にとっての差別化の切り札になる。また、毎年のように自然災害が起きており、今後もコメ、野菜などの不作も起きうる。コメ、野菜の価格が上がれば、予算の決まった給食は加工食品の頻度が減る。飲食店においても利益が圧迫され、原材料のコスト高で経営が厳しくなることは確実だ。また、生鮮だけではなく、保存ができ、年間通してコストが安定している素材の冷凍品も伸びている。業務用食品卸は、素材を中心とした調達力、提案力が求められるようになるだろう。
業務用食品卸が生鮮を強化し、フルライン化を進めることで価格、供給の安定化への役割の一端を担うことができたとしたら、産業としての新たな機能、差別化への付加価値となるのではないか。
●ハラール、ビーガン食材拡充を
20年にはいよいよ東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)が開催される。訪日外国人観光客数(インバウンド客数)も約4000万人が見込まれる。過去のオリンピック開催国ではオリンピック前後ではインバウンド客数の1人当たりの消費額は2割程度増加しているといわれ、20年のインバウンド消費は3・5兆円以上と試算されている。
かつては「爆買い」のイメージが強かったインバウンド客だが、今では「日本食を食べること」「自然・景勝地観光」「四季の体感」などモノ消費からコト消費へと消費が移行しており、インバウンド需要は東京2020大会を契機に、東京都など首都圏だけでなく地方都市にも大きく波及するだろう。インバウンド客は基本的に1日3食が外食であり、業務用食品卸にとっても人口が減少する中で、消費の下支えが期待できる、また新たな市場を創出できる大きなチャンスでもある。
東京2020大会の開催期間は1ヵ月程度だが、日本が観光立国となればインバウンド客は今後も増加する。先を見据えた「食のコト提案」「メニュー提案」などを準備するとともにハラール、ビーガンなど世界各国・地域の宗教・思想まで考慮した食材を拡充することが必要となるだろう。これは、給食でも同様だ。外国人技能実習制度の活用が進めば、日本で働く外国籍従業員が増加する。その人たちに合わせた食提案も必要となる。
20年以降は景気の失速が懸念されているが、きっちりとインバウンド客をつかめば、業務用食品卸の市場はまだ伸びる可能性は高い。しかし、まだ広がりが期待できる市場に参入できるのは「働き方改革」などの社会変化に対応できた企業だけだ。20年はその正念場といえる年になる。(金原基道)