和食特集

和食特集:「コト」情報発信 農水省「SAVOR JAPAN」

特集 総合 2019.12.20 11987号 09面
山形県鶴岡市の精進料理

山形県鶴岡市の精進料理

●地域の食・観光資源を活用

農林水産省は東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年度もインバウンドを地域に誘致し、輸出につながる「SAVOR JAPAN(セイバージャパン)」の事業を継続する。地域の食品と観光ツアーなどを組み合わせ、地域の文化など「コト」情報を実感してもらい、訪日客の帰国後にも消費するように仕掛ける。

お膳の上に多くの小皿が並ぶ。小皿の料理は肉や魚を一切使っていない。山形県鶴岡市の出羽三山(でわさんざん)神社に伝わる精進料理だ。

煮物には出羽三山に見立てた月山筍(がっさんだけ)、とろりとしたあんがかかったごま豆腐、在来野菜を使ったナスの田楽にキュウリの香物、ウド、イタドリといった山菜を使った煮物や炒め物、だだちゃ豆の味噌汁などが並ぶ。豪勢ではないが、一つ一つを丁寧にこしらえた料理だ。

地元の食材を生かし、時には、塩漬けや乾燥などの保存技術によって、野山で採取してきた山菜やキノコをおいしく食べられる工夫がなされていた。その時々で得られる食材をうまく利用している。

出羽三山登拝は江戸時代以降、大いににぎわいを見せるようになり、参拝客は必ず宿坊に泊まり、山伏によるガイドで羽黒山-月山-湯殿山と三山を巡ったという。日本の宗教、文化の色合いもあり、通常の菜食主義用の食事とは大きく異なる。

2014年12月に鶴岡市はユネスコの「食文化創造都市」に登録された。ユネスコが認定する「創造都市」は、「文学」や「食」などさまざまな分野の特色を持つ都市が認定され、鶴岡市は「食文化」の分野で登録されている。

鶴岡市は、もともと多彩な食文化を次代に継承し、食関係産業の振興に取り組むことを目的に、産・学・官・民の連携のもと、11年7月に「鶴岡食文化創造都市推進協議会」を設立。多彩な食文化の継承・創造や国内外の都市とのパートナーシップにより創造的な産業の創出に取り組み、地域経済や学術・文化の振興・発展を図っている。16年にはセイバージャパンにも登録。新たなインバウンド需要を増やしていく。

地域の食文化に

セイバージャパンの事業は16年度から開始。農水省は、内閣官房、経済産業省、観光庁などとも連携して進めている。地域の景観、食、農、観光資源など地域特有のコト情報を「知ってもらう」、酒蔵、飲食店、市場・直売所など訪日旅行客を受け入れる場の「食べてもらう、泊まってもらう」などを展開する。

各省庁はホームページ、各国の展示会、映像の放映などで情報発信する。ブランドとして、各地域の食や農山漁村の魅力を一体的に発信し、訪日外国人旅行者の誘客を支援していく。

加えて、セイバージャパンにかかる地域のさらなる魅力づくりのためのサポートを実施。例えば(1)地域開発のための有識者・アドバイザー派遣や紹介(2) 地域の食・農業を中心としたコンテンツ/ストーリー作り(3)インバウンド来訪に資する旅行商品づくり支援(4)海外旅行博覧会、商談会などへの出展支援(5)ホームページ、各種SNSとの連携による情報発信(6)認定地域間のネットワーク構築だ。

こうした支援を受けるためには地域として認定を取得しなければならないが、16年度は山形県鶴岡市、北海道十勝地域など5地域、17年度は宮崎県高千穂郷・椎葉山地域など10地域、18年度は広島県尾道市など6地域が認定されている。各地域では商工会議所(商工会)、農業協同組合などが参加する協議会が必要だ。

食品産業、旅館業などは中小企業が多く、訪日客を取り込み、地域の資源を活用するノウハウがなかった中での新たなアプローチだ。(伊藤哲朗)

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