鍋物調味料特集

◆鍋物調味料特集:暖冬予想乗り切れるか 健康志向で価値増大

調味 2019.10.11 11955号 08面

健康栄養バランスに優れ、心身を温める鍋物商戦が本格シーズンを迎えつつある。家族や友人とともに囲み、食とともに会話が進む鍋は冬の人気メニュー。食卓への登場頻度は秋冬通じて月平均2~3回とみられて他を圧倒する(Mizkan調べ)。最近では生鮮セットも普及して手軽な1人鍋、平日や朝昼食、春夏へと食シーンを拡大。野菜をはじめとした生鮮3品がおいしく、たくさん食べられる健康価値が支持されて、活躍の場を広げている。(吉岡勇樹)

●小世帯・高齢など現代ニーズが鍵

味付け鍋つゆや鍋のつけだれの代表格であるぽん酢は前3月期、暖冬の影響を受けて苦戦した。今期も暖冬予想が色濃く、長期での世界的な温暖化は統計上も明らか。低糖質や高タンパク、減塩といった従来少なかった健康訴求を進めて価値を増大。現代ニーズに応え、気候に左右されない健康メニューに育てたい。

市場は構成比5割の味付け鍋つゆと4割弱のぽん酢で二分する。鍋つゆは消費のほとんどを秋冬の下期のみに限りながら、規模300億円を超えて最大。濃縮つゆを超え、400億円ほどとみられる醤油に迫る、和風調味料の代表格に育ちつつある。

鍋つゆの前期苦戦の主因は、昨年9~11月の高温。前年の17年が記録的な厳冬だっただけに実際の体感温度も高かったとみられ、ホットメニューを敬遠する消費動向が続いた。好天続きで白菜などの冬野菜価格は10月から大幅に下落。野菜安という好材料を生かせず、特に3~4人前ストレートタイプで主力のパウチ商材が苦戦した。寒さが本格化した12月以降は、鍋の登場頻度が前年実績を上回り、つゆ消費も回復。通期では序盤戦の遅れを取り戻せなかった。

鍋つゆ市場はストレートのパウチが構成比6割。専用の使い切りタイプだけに、気候要因の影響を受けやすい。前年の厳冬下では大幅に伸び、前期は反動減もあったとみられる。味種別で見るとメーンのキムチ、寄せ鍋が全体と同様に不振。だし原料を訴求し、差別化した商品が唯一気を吐き、鰹節・昆布主体の寄せ鍋からアゴ、タイとだし素材の提案と人気の幅が広がった。

だし人気を引っ張るのがアゴだし。トビウオを焼いて乾燥させたアゴを原料にし、だしパック、濃縮つゆのヒットに鍋つゆも続いた。丸干し系だけに薫香といった乾物独特の匂いがほとんどなく、親しみやすい味と全国区で浸透。子ども人気も高い。

鍋つゆの消費増は手作りしていた高齢層の需要シフトも大きい。だしを利かせて塩分控えめ、濃すぎずに最後の一滴まで飲み干せる設計はシニアに人気。水溶性の栄養成分も取れて、健康志向の深まりも支持されているようだ。

メーカー別ではMizkanがシェア2割以上と先行する。前期は情緒・機能性訴求を深化。鍋は野菜のかさが減り、自然とベジファーストでさまざまな食材が食べられると提案した。締めの炭水化物量も分け合って1人当たりは少量。太りにくい低糖質な献立とメニュー価値を向上した。暖冬による苦戦はあったが、トップメーカーとして鍋の基本価値を高め、市場活性化の使命を果たした。

鍋つゆ市場は前期、ストレートの苦戦があっても前年実績並み。一昨年比では拡大し、過去5年でも着実に増大して、成長を引っ張るのがシェア3割の小分け。1人前ごとに詰め合わせた小分けタイプは、味の素社が12年に発売した「鍋キューブ」で新カテゴリーを築き、6年連続で成長した。

小分けの強みは、分かりやすい1人前単位の使い勝手の良さ。鍋の日常・個食化を加速し、小世帯化という社会構造の変化をとらえた。アレンジ提案も進んで具だくさんのスープやポトフ、雑炊、うどん用つゆにと用途を広げている。同時にウイークデー使用、通年化という食シーン拡大をけん引。軽くてかさばらない買いやすさ、買い置きしやすい設計も好評。直近の野菜相場に消費マインドが左右されない、安定購入が得られる商品力が際立つ。

「鍋キューブ」にシェア2番手のエバラ食品工業の「プチッと鍋」、Mizkan「こなべっち」が続き、主要商品はシリーズ名が認知されて確立。CM投下をはじめとしたブランド勝負の様相も呈している。

今期の春夏商戦も小分けタイプの展開が進行。本格商戦の9~10月の立ち上げ期へ勢いをつないでいる。気象庁は9月末に今季の暖冬傾向、小雪見込みを発表。実際に10月上旬まで温かい日が続き、暖冬予想を早くも体感する、逆風の悪環境で商戦が始まった。気候の悪条件を除けば白菜、大根などの冬野菜相場は安定。10月からの消費増税による節約、生活防衛、内食志向は追い風になるとみられる。

注目はMizkanの新たな洋風メニュー、人気の「+(プラス)チーズ」提案に限らない。カテゴリー規模が大きいものの、最近の味種拡大で弱含みだったキムチ鍋で提案が盛んだ。先立つエバラ食品工業は「プチッと」で珍しい「黒キムチ」を展開し、味の素「鍋キューブ」も商品化に至った。ヤマサ醤油が、子ども喚起に絞った「ご飯がススムキムチ鍋つゆ」も配荷が順調だ。キムチ以外でも、モランボンやダイショー、エスビー食品も辛口の鍋つゆを導入し、しびれブームといった辛み人気に応える。

だし訴求は鰹節大手のヤマキやにんべんで差別化戦略が確立。キッコーマン食品独自の「発酵だし」も提案2年目の躍進が期待できそうだ。そのほか、すき焼きのたれは近年目立ったプロモーションがなかったが、トップブランドのエバラ「すき焼のたれ」が発売50周年で販促強化。ごちそう鍋の復権が待たれる。

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