全国卸流通特集

全国卸流通特集:酒卸 改正前に逆戻り 予想以上の厳しい局面に

卸・商社 2019.09.28 11949号 18面
複数メーカーの商品を組み合わせた提案は卸ならでは。国分グループ本社のインバウンド需要対応策

複数メーカーの商品を組み合わせた提案は卸ならでは。国分グループ本社のインバウンド需要対応策

17年6月に施行された改正酒税法。新たな制度の下で、順調に滑り出したかに見えた酒類業界だったが、実態はそう簡単ではないようだ。特に卸に対しては、小売業からの見積もり要請が多く寄せられる状況が続いている。酒類の市場環境については、「改正法の施行前に戻っている」との声もある。戦後最大といわれた施行から3年、予想以上に厳しい局面を迎えているといえる。(丸山正和)

●「量から質」提案へ期待

酒の原価割れ販売を規制する目的で行われた酒税法の改正。新たな取引基準を導入し、合理的な説明ができるコストを織り込んだ状態での販売を義務付けた。担税物資である酒の過度の安売りを禁じ、規模の小さい街の酒屋を救済するのが狙いだ。

酒卸は施行に向け、それぞれに設けた自主基準に基づいてコストを算出し、新たな納価を設定。取引先の小売業に説明し、全国的にみてもおおむね納価は上がるなど大きな成果を残した。

施行された17年度の全国系卸売業の決算では、7社全てが増収、うち5社の経常利益は前期比プラスで着地した。酒類の扱い比率が大きい卸ほど収益の改善効果が高いなど、新制度下での納価アップの影響が顕著に出た。

小売業を見ても、店頭価格が上がったことで、これまで収益の低さに苦しんでいたビール類や甲類焼酎などを中心に利益率が向上した。

だが、販管費率の違いなどにより店頭での価格差が常態化して、売上げに影響するようになると状況が変わる。

多くの卸によれば小売からの見積もり要請が増え始めたのは、施行から半年もたたぬ17年秋。これ以降、見積もり要請は活発化し、2年以上が経過した今も続いている。

小売からの納価下げ圧力ともいえるような要請を受ける卸は、改正酒税法によって設けた自主基準を順守しつつ、得意先への対応に努めるという難しい局面に置かれている。

担税物資である酒類の公正な取引について、法律で一定の基準を設けるという改正酒税法の趣旨は、ほとんどの酒類卸に評価され浸透している。

だが、デフレが長引く生活者の消費意向と市場の競争原理に押される形で、店頭価格は下落を迫られている。特にヘビーユーザーが多いパックの日本酒や大容量の焼酎などで影響が大きいようだ。

また、新制度では「合理的に判断できる」との文言により、コスト算出法が各企業に任されていることを疑問視する声が多い。

仕入れ原価や製造原価に適正なコストを加える、というのが新制度で下回ってはならないとする「総販売原価」の基本。その根本をなすコスト算出基準が一定でないため、業態や企業の組織体制の違いにより、納価や販売価格に差が出てきてしまっている。

新制度に対しては、「酒の公正取引に基準をつくった」「初めて過度な安売りを法規制した」と評価する見方がある一方で、「基準がはっきりしない」「事業者と国税庁のあいだで齟齬(そご)が生まれている」「消費者に改正=値上げの趣旨がわかりづらく伝わっていない」などの声も多い。

監督官庁である国税庁は改正法の施行以後、取引実態調査を2度実施。それぞれ改善を「指示」した事業者として17事業年度に4件、18事業年度に8件あったと公表している。

2度目の発表時には、指示に至る事例内容を事業者ごとに明らかにするなど、より詳細な情報提供に努めているといえる。

国税庁は新制度による公正な取引の基準などについて5年ごとの見直しを示唆しており、年々卸業者からの期待が高まる。監督官庁には引き続きのきめ細かい情報開示と実態に即した柔軟で明快なルールの構築を求めたい。

こうした中で、酒卸の多くが力を注ぐのが「量から質」へ転換だ。ここ数年は人手不足などによる物流費の高騰が続いており、ただでさえ収益をすり減らす状態に置かれている。

物流コスト増は長期的にも解消するとは考えられず、卸各社は経営の合理化による経費削減に奔走している。嗜好(しこう)品の酒類には、価格競争とは一線を画す価値訴求による収益源となることが求められる。

19年は9月からアジアで初となるラグビーワールドカップ(W杯)が開催されるほか、20年には最大のスポーツイベントとされるオリンピック・パラリンピックの東京大会も控える。

卸各社は近年、増加するインバウンド需要獲得に向けた取組みを進めてきた。ラグビーW杯ではビール消費の大幅な増加が期待されているが、日本酒や焼酎といった和酒については、東京五輪を前にして卸ならではの提案力が試されそうだ。

また、卸発の商品面での提案として注目されるのがオリジナルブランドだ。高アルコール度数のRTDがコストパフォーマンスの高さで人気となる中、複数の卸が食品とコラボしたアイテムや健康イメージのRTDを開発。メーカー品とは異なる視点から生まれた商品として支持を得ている。

EUとのEPA発効を受け、輸入ワインの提案も熱を帯びる。どちらもメーカーと小売をつなぐ卸のマーケティング力が生きる分野であり、国内の消費活性化への貢献が期待される。

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