全国卸流通特集

清涼飲料 2021.09.30
全国卸流通特集

 新型コロナウイルスの感染拡大が想定を超えて長期化し、食品卸業界が難しい舵取りを強いられている。緊急事態宣言の発令に伴う生活者の行動変化を受け、外食需要の回復に見通しが立たないほか、巣ごもり消費で堅調な家庭用市場では、今後の競争激化を懸念させる要因が相次ぐ。
 内食需要にシフトが進む中で購買スタイルの変容が顕在化し、小売店舗での買い物回数が減少する一方、ECや宅配が急速に伸びている。20年度の通販市場は前年比20.1%増の10兆6000億円(日本通信販売協会調べ)と初の大台を突破し、CVS市場に匹敵する規模へ成長。かねて表面化していたネットとリアル店舗の競争は、コロナ禍を契機に新たな局面へ突入しそうだ。
 この1年半、中断していた小売業の見積もり合わせの再燃を懸念する声も強い。昨年は店舗に客が殺到し、小売業は何よりも商品の安定供給を優先していたが、今年はその特需が消失。巣ごもりが長期化する中で業態間の顧客の奪い合いが進み、卸へ価格対応を求める要請が再び強まっているという。
 相次ぐ流通業界の再編も、卸の経営に影響を与えそうだ。コロナ禍に見舞われた昨年から今年にかけて、小売業界ではM&Aや合従連衡の動きが加速。DgSが地域SMを傘下に収める業態を超えた再編も見られ、既存の取引構造に変貌を迫る可能性もある。
 長期的な外食市場の不振を背景に業務用卸と総合大手卸が連携を強める動きも見られるなど、業界の勢力変動を促しそうな事例も後を絶たない。
 昨年は卸業界が平時を大幅に超える商品供給に対応し、サプライチェーンの維持へ尽力する中で、それまで過剰だった物流サービスの是正が進むなど収益改善の兆しも見られた。それでも20年度の大手総合卸7社合計の経常利益率は平均0.69%の低水準にとどまり、業界指標の1%にはほど遠い着地となった。
 卸業界が低収益体質改善の糸口を容易に見いだせない中、下期以降の相次ぐコスト圧迫要因へどう対処するか正念場だ。コロナ影響は少なくとも来年一杯は継続し、収束後も生活様式の中で元に戻らない部分が相当出てくると懸念する卸関係者は多い。
 そうした中で、卸は厳しい市場環境を乗り切る耐久力・合理化に加え、変化へ的確対応できる経営戦略の双方を追求することが不可欠な情勢だ。大手卸が今期始動した経営計画では、従来の物販の収益だけに頼らない新たな事業モデルの構築ほか、業界連携によるサプライチェーンの最適化推進で効率性を追求するなど、収益構造の抜本的な見直しを本格化させる動きも目立つ。
 大手卸を中心に広がるサステナビリティへの取組みも、新たな業界潮流となるか注目される。従来、この領域は社会貢献のイメージが先行してきたが、人手不足や地域の衰退などが深刻化するわが国にとって、持続可能性の追求は避けて通れない課題へ浮上してきた。
 本業を通じたサステナブルへの取組みは、新たな事業機会の創出や非効率な商慣習是正、地域食文化の継承など、卸経営に多面的なメリットをもたらす可能性も秘めるだけに、業界共通の課題として取り組むスタンスが求められそうだ。(篠田博一)