海外日本食 成功の分水嶺(77)たこ焼き・お好み焼き・焼そば「祭」<上>
●日本ブランドだから来る
日本の縁日かと見間違うかのような華やかな店づくりに桜の造花。おのおのの店先には、「いらっしゃいませ」や「毎度おおきに」といった日本語の案内。それだけを見れば、ここが外国であることをすっかり忘れさせてしまいそう。そんな日本の「祭」をイメージさせる催事がタイで盛況だ。主催するのはほとんどが地場百貨店などのタイ資本。「日本(ジャパン)ブランドがないと客は来ない」と言い切る担当者も。その常連出店者の一つに、「祭」のチームがある。
主宰するのは大阪出身の山内敏明さん(54)。百貨店の催事などに出店する仕事を始めて、もうずいぶんとなる。タイを活動の拠点とするようになったのは約7年前。その翌年から各地の催事に参加するようになった。提供するのは大阪の味でよく知られた、たこ焼き、お好み焼き、焼そば–の3点だ。
屋号「祭」は、タイ人にもなじみのある親しみやすい言葉から採った。赤い法被に大きな「祭」の文字。「それだけでタイ人はワクワクする」と山内さん。チームは自身を除いてすべてタイ人の総勢十数人。東北部イサーン地方のスリン県出身者が多く、人手が足りなくなれば故郷の村から兄弟姉妹が大挙して手伝いに来る。そんなフットワークの軽さ、明るさが特徴だ。
コンセプトは「代表的な日本のソウルフードを手頃な価格でタイのすべての消費者へ」。このため輸入食材はほとんど使わず、現地調達の具材などで賄うようにしている。こうした工夫で百貨店での催事にもかかわらず安価を実現。「バンコク近郊では一皿100バーツ(約340円)で、地方では80バーツで提供している」(山内さん)
取材に訪ねたこの日は、バンコク北郊のイベント施設「インパクト」で開催された住宅雑貨の即売会「Biggestフェア」に出店していた。ブースの名は「ジャパン横丁」。住宅雑貨の即売会にどうしてたこ焼きが、と思う人も多いことだろう。
タイでは百貨店などの催事にとどまらず、各種イベントや展示会、さらには発表会など公的私的な場にも、何かと存在するのが飲食ブース。それをお目当てに来場する客もいて、欠かせない存在となっている。
中でもこのところの大人気なのが「ジャパン」ブランドを冠にした出店だ。日本の名が付くだけで、客の入りは全く異なるのだという。「それだけ日本がタイ人の中でヒットしていることの証拠。これがアジア・フェアだったり、中国フェアや韓国フェアでは残念ながら客は来ない」と山内さんは解説する。
最近では、ともに東北部のコンケーン県やナコンラーチャシーマー県など地方都市からもお呼びが掛かるようになった。昨年1年間だけでも“出動”件数は、10件は下らないというチーム「祭」。今年はさらに引き合いが増し、現時点で倍増の20件前後の参加が見込まれている。
「タイ人客のクオリティーを求める感覚も高まってきており、安かろう、悪かろうではいけない。本場の大阪の味を届けたい」と山内さん。その目は、若いスタッフに囲まれ生き生きとしていた。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)