海外日本食 成功の分水嶺(100)日本食材販売業「サイトウフーズ」〈下〉

総合 連載 2020.05.11 12049号 03面
販路拡大に対応し2017年にはシーラーチャー支店を設置。写真はタイ人スタッフら=提供写真

販路拡大に対応し2017年にはシーラーチャー支店を設置。写真はタイ人スタッフら=提供写真

●変化へ対応しっかりと

タイの首都バンコクで一般家庭向け宅配と業務用卸を手掛ける「サイトウフーズ」は、日本食材を販売する老舗。2代目で現社長の斉藤誠さん(46)を現場で支えるのが、埼玉県出身のセールスマネジャー坂本俊吾さん(39)だ。

大学卒業後、大手コンビニエンスストア(CVS)に就職。10年後にはスーパーバイザーまで上り詰めた。その後、一念発起して北海道の水産加工会社へ。そこで知ったのが海外市場での販路拡大を目指して行われる展示会などへの出展事業だった。

バンコクで開催されたとある展示会。会場で坂本さんはサイトウフーズ社長の斉藤さんと名刺を交換していた。初対面なのに妙に馬が合った。一方で、バンコク市場については「成熟しているといわれている割には、まだまだ成長の余地があると感じた」。

転職の決意が固まるまでそう時間はかからなかった。オファーを受け、間もなくタイへ。一昨年8月のことだった。

小売の現場経験が豊富な坂本さんにとって、「どれだけお客さんに感謝されるか」が自分たちの存在指標。あって良かった。安心して注文ができる。それだけを求めて日々の仕事があると思っている。できる限り地産地消を進めるのもそのためだ。

「ほかでは手に入らないもの。日々の暮らしで必要とされるものに、とことんこだわった」

新型コロナウイルスの感染拡大で各種事業所が相次ぎ休業を決めた時、真っ先に営業を続けようと訴えたのも坂本さんだった。

「食品や日用品を届けるわれわれが休んではいけない。お客さんも外出できずに困っている。できる限り営業を続けるべきだ」と。

この時、坂本さんの脳裏には、2011年3月、東日本大震災時に見た街の原風景があった。あの時、東北地方や関東地方などでは飲食店が営業を取りやめ、小売店やCVSでは食材や惣菜を買い求める人々が列を成した。

商品は棚から次々と姿を消し、余震や混乱を恐れて人々は家で食事を取るようになった。生活スタイルも食事の取り方も何もかもが一変した。

「新型コロナを契機に、タイでも家メシが復活するかもしれない」というのが坂本さんの見立てだ。

もともとタイ人は、大家族が一つ屋根の下に住む暮らしを最近まで続けてきた民族。子どもが都会に出て働くようになったのは、つい最近のことだ。

「小売の責任として、こういう変化にもしっかりと対応していきたい」と考えている。

政府による営業停止の措置を受け、店が開けずに苦しんでいる日系飲食店などとのコラボレーションも進めている。「○○屋のおにぎり」「××のスープカレー」。

これまで飲食店内で販売されていたものを冷凍・冷蔵化。自社の販売ラインアップに加えている。

「営業できない飲食店の役に少しでも立つことができれば。お客さんのためにもなるし、困った時はお互いさま」と斉藤社長。

間もなく創業四半世紀となる老舗は、新型コロナの難局にも果敢に挑戦しようとしている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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