海外日本食 成功の分水嶺(146)生活雑貨均一ショップ「タイ・ワッツ」〈下〉

小売 連載 2022.06.13 12414号 03面
日本の美濃焼など食器だけでも常時陳列アイテムは30~40にも及ぶ=タイ・バンコクで小堀晋一が4月29日写す

日本の美濃焼など食器だけでも常時陳列アイテムは30~40にも及ぶ=タイ・バンコクで小堀晋一が4月29日写す

●ブランディング力で勝負する

バンコク首都圏を中心に多店舗展開する生活雑貨均一ショップ「タイ・ワッツ」の責任者、稲田敏之さんは大阪の出身。大学を卒業後、海外業務を主力とする旅行会社に就職。間もなくタイに赴任した。タイを含めた当時の東南アジアは、発展途上国からの脱却を目指した経済成長著しい活力あるエリア。街の熱気と人々の熱い思いに、いつも魅了されていた。

帰国してしばらくの後に、縁あってワッツ本社グループに入社。商品の買い付けを担当するバイヤーとして再びアジア各国と関わるようになった。香港、ベトナム、シンガポール、マレーシア、そしてタイ。半ば忘れかけていた熱い記憶を思い出した。

このころ会社が検討を進めていたのが海外展開。市場の限界が見え始めていた日本を飛び出し、均一ショップ業界も世界の新市場への進出を模索していた。早速、視察が始まった。社長らとアジア歴訪の旅へ。2008年のことだった。

だが、経済発展はそれぞれの国々が抱える諸事情によって、その進度や方向性はさまざま。一筋縄にはいかないことも少なくなかった。例えば、現在では製造業が集積する工業国のベトナムも、農村社会からの脱却が見通せていなかった。市場が日本企業を受け入れてくれるかという強い不安もあった。

こうした中で命じられた視察の報告書作成。稲田さんは当初、海外出店は時期尚早、難しいのではないかと感じていた。ところが、社長の口から出た指示は「(海外進出)できると書け」。「マジかよ」と思いながらも、心のどこかでは静かな興奮を感じていた。

帰国後、早速取り掛かったのが事業計画書の作成だった。進出候補先は、かつて赴任したこともある親日の国タイ。このところの中間所得者層の成長が決め手となった。市場の潜在性を盛り込んだ事業計画書を提出すると、役員会議を経て社長からお達しがあった。何かと思ったというそれは、「お前が行け」の一言だった

数千、時には万単位にも上る商品から、どれを陳列するかによって店のカラーや訴求力は違ってくる。当然に来店する客層にも影響が及ぶ。ライバル店との差別化をも大きく左右する。「店のブランディングは、その後の客足の行方を占う重要な事業戦略だ」と稲田さんは解説する。

タイ・ワッツが目指すのは、食器や台所・掃除用品など日用品を主力とした店造り。その中でも、機能性が高く高品質で、価格帯としてもリーズナブルなものを中心に品揃えを進めている。常時動きのある商品は400アイテムほど。これらとの相乗効果を目指して、日々新商品を投入している。

このところの日本食器の人気をただの追い風とは感じていない。それを味方につけられるかどうかで、次なる展開は変わってくる。「わずか1年で明暗が分かれることもある。消費者動向をきちんと見据えた魅力ある店舗運営が必要だ」。そういって稲田さんはインタビューを締めくくった。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)