海外日本食 成功の分水嶺(127)日本式焼肉&寿司居酒屋「乾杯2」〈上〉

連載 外食 2021.07.26 12266号 03面
新規開業した日本式焼肉&寿司居酒屋「乾杯2」のスタッフと濤川雄太さん(前列左端)=提供写真

新規開業した日本式焼肉&寿司居酒屋「乾杯2」のスタッフと濤川雄太さん(前列左端)=提供写真

●チャンスは地方にあり

タイ東部パタヤ市の繁華街ウオーキング・ストリートから山側に向かって徒歩30分超。地の利には決して恵まれていない住宅街に、その店は今年7月10日オープンした。つけだれで食べる日本式焼肉と寿司を提供する居酒屋「乾杯2」。新型コロナの影響で、バンコク首都圏などでは翌々日から飲食店など商業施設の規制が一段と増すことが決まっていた。オーナーの濤川雄太さん(39)は、「ピンチはチャンス。人生の一大勝負」と腹をくくって、この日を迎えた。

乾杯2は、Sパタヤ・ロードをほぼ東に2km余り進んだ左手路地の奥にある。国道には近いものの、一見の観光客はまず足を踏み入れようもない場所。一方で、地元住民にとっては抜け道となる生活道路があり、近くにはアパートや商店が立ち並ぶ生活臭の漂う地域だ。

以前は中国料理店だった空き物件を居抜きで丸ごと借りた。広々としたテラス席を合わせて最大50席を見込む。タイで好まれる開放的な造りが魅力だ。一等地でない半面、大幅に賃料を節約することもできた。

狙う客層は、もちろん地域に暮らすタイの人々。コロナ禍で収入も減り、財布のひもをきつく縛るようになった地元客だ。このため、例えば焼肉は一皿99バーツ(約330円)からと可能な限り低く抑えた。寿司に使う鮮魚も独自の調達ルートで、日本産も含め低価格で提供している。

「なぜ、この場所に、このような店を」の問い掛けに、「同業種、同業態、同立地の飲食店が他になかったから」と明快に答える濤川さん。出店までのリサーチには、コロナ禍もあって十分な時間をかけた。

首都バンコクには数ある日本式焼肉や寿司店だが、わずか150km離れた観光地パタヤでは、ほとんど見られないのは意外なほど知られていない。一方で、観光業を中心に一定の就労者人口を誇る街でもある。「ないものを提供する」。商売の大原則だった。

乾杯2の店名は、約2年前に現在より繁華街に近い場所で手掛けた居酒屋「乾杯」の後継店という思いから。今一つコンセプトがはっきりできず、中途半端に閉店してしまったことが気になっていた。いつしかリベンジをとの思いがずっとあった。この間、練りに練って得た結論が徹底した個性化だった。「あれもこれもに陥らない特化した店にしたかった」

潤沢に投資もできないことから、内装など大半の店づくりはスタッフとともに自ら行った。壁張り、ペンキ塗り、ちょうちんの設置。部活の合宿にも似た連帯意識も生まれた。かけがえのないチーム、愛する仲間たち。彼らの生活を守るという思いも強く芽生えた。

コロナ禍がタイ全土を襲うようになって間もなく1年半。直撃された飲食業界では、閉店や撤退を余儀なくされるケースが後を絶たない。こうした中で新規出店に挑む濤川さんの「乾杯2」。その決断の根底にあるのが、「チャンスは地方にあり」という固い信念と分析結果だ。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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