海外日本食 成功の分水嶺(168)うどん・お好み焼き・もんじゃ焼き「DONDON」〈下〉

連載 外食 2023.06.16 12595号 07面
タイ人客に支えられているDONDON=オーナーの日置文比古さん提供

タイ人客に支えられているDONDON=オーナーの日置文比古さん提供

 ●巡り合わせのタイ出店

 タイ・バンコクにあるうどん・お好み焼き・もんじゃ焼きの店「DONDON」が開業した2000年代初頭は、タイではまだ日本食レストランは数えるほどしか存在しなかった。店が立つスクンビット39の同じエリアにも日本そばの専門店があったが、半年で閉店を余儀なくされていた。その当時、日本食店の経営は、まだ難しい商売の一つだった。

 DONDONのオーナー日置文比古さんが店を出すきっかけは、巡り合わせの連続だった。02年4月に50歳で三菱商事を早期退職。日本で居酒屋を出店しようと計画していたところ、たまたま占ってもらった風水で「この先2~3年、ビジネスは待ったほうがよい」との結果が出た。

 ならば時間を有効活用しようと、直近まで4年間赴任していたタイを旅行。ホテルに滞在したり観光地を巡ったりする傍ら、友人らとゴルフを楽しむなど南国暮らしを味わっていた。

 その時、知人から紹介があったのが、現在のDONDONがある5階建て空き物件だった。タイでの居酒屋経営は少しも考えていなかったという日置さんだったが、試しに内覧を実施。すると、1階の厨房には冷蔵庫やコンロなど調理器具が一通り揃っているほか、1、2階には座席、5階には住居用のスペースが完備されていることが分かった。

 元来の食事は自炊派だという日置さん。「これだったらホテルに滞在するより得だ」と判断。居酒屋出店はまだ2~3年は先だという思いもあって、居住用に賃貸契約をすることとなった。週末などにゴルフ仲間に手作り料理を振る舞う生活は、こうした巡り合わせから始まった。

 タイでの自炊暮らしも慣れてきたころ、再び風水の占いを受けてみた。すると今度は、タイで店開きするならば翌年2月がチャンスとの結果が出た。「日本で将来、居酒屋経営するための予行演習と考えた」という日置さん。思いもしなかったタイでの飲食店経営がこうして始まった。2002年2月15日のことだった。

 当初から日本のB級グルメを提供しようと考えた。真っ先に浮かんだのは、大衆食のうどん。入居した店舗は、もともとそば店に合った造りだった。必要な器具類は一通り揃っていた。もう一つの頭に浮かんだのが、B級グルメのお好み焼きだった。どうせやるなら、もんじゃ焼きもと追加した。

 居酒屋経営は思いのほか順調で楽しかった。一つ二つと順に増やしていったメニューは、いつしか50品、60品を超えるまでとなっていた。

 退店時に「アロイマーク(とてもおいしかったよ)」と声を掛け、次回は両親を連れてくると約束してくれる客の言葉が支えとなった。

 「店が忙しくなるにつれて、日本での居酒屋出店は次第に意識に上らなくなった」という日置さん。気が付けば世紀をまたいだ20年が経過していた。ひょんなことから始まったDONDONの経営。「体力がある限り継続したい」と話している。

 (バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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