海外日本食 成功の分水嶺(96)マルコメ(タイランド)〈下〉
●甘酒カフェで市場浸透目指す
初めてとなる海外常設アンテナショップ「発酵らぼ」を昨年2月、タイ・バンコクに新設した大手味噌メーカー「マルコメ」。入居する大型ディスカウントストア「ドンキモール」の1階フロアでは、アンテナショップとは別に甘酒を売る販売店「Koji Bijin Cafe(糀美人カフェ)」も同時に開設。連日にわたって、多くのタイ人買い物客でにぎわっている。
日本では正月やひな祭りなどの慶事に飲むことが多い甘酒だが、暦の異なるタイではそういったこだわりもない。喉ごしの爽やかさと程よい甘みが評判を呼び、ちょっとしたブームを引き起こしている。2号店の出店も決まり、早くもそろばんをはじく。1Lパックの販売も始まり、現地法人「マルコメ(タイランド)」社長の山本佳寛氏も「予想を超えた反響」とうれしい悲鳴を上げる。
コメと米糀を糖化するだけで作り上げる同社の甘酒は、砂糖と乳成分などの添加物が一切不使用。アルコール分もない。加えるのは彩りを補うための冷凍フルーツのみで、ライチ、マンゴー、パッションフルーツ、イチゴなど10種類を取り揃える。ところが意外にも、人気のトップは甘酒だけのプレーンタイプ。ここに山本氏らは確かな手応えを感じている。
タイにも甘酒に似た飲料の「カオマーク」がある。カオはコメ、マークは豊富さを意味する。白モチ米を発酵させて作るもので、やや酸味があり、発酵が進んだものはアルコール分も含む。さらに発酵すると米酢に変わる。ただ、発酵過程こそ似ているものの原料が異なることから独特の香りもあって、日本の甘酒とは似て非なるものとの受け止め方がタイでは一般的だ。
そのタイで、日本の甘酒が広く受け入れられている現状について、山本氏はここ数年高まっている健康志向を挙げる。「甘酒には肌を美しくする効果がある。タイの人々の健康増進にも貢献したい」と話す。実際にKoji Bijin Cafeの店舗をのぞいても、買い求める多くの客はおしゃれに余念のない若いタイ人女性。二つ三つと購入して自宅用の持ち帰りとしていた。
山本氏らはこの甘酒を、主力の味噌に次ぐ大きな柱に成長させたいと考えている。カフェや発酵らぼの運営を通じ、BtoC(一般消費者取引)で得られたノウハウと戦略をBtoB(企業間取引)向けにも活用していく意向だ。安価でなければ売れないという、これまでの固定観念は店頭での実証でほぼ払拭(ふっしょく)された。まずは手始めにホテルのウェルカムドリンクなどに利用できないか、業務用販売の拡張に力を入れていく方針だ。
スーパーなどでの陳列拡大や各種イベントへの出店も加速させる。こうしたことを通じて、「糀美人」を一気にブランド化させていく絵図を描く。近頃は、ひとたびイベントに出店すれば1日当たり優に100杯以上は売り上げるまでとなり、すっかり知名度も向上した。店舗の前では順番を待つ長い列ができることも。「さらなる販売網の構築を目指したい」。飽くなき貪欲さを示して山本氏へのインタビューを終えた。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)