海外日本食 成功の分水嶺(142)小料理「結び」〈下〉

連載 外食 2022.03.16 12375号 05面
2年前に新規開業した小料理「結び」=タイ・バンコクで小堀晋一が2月2日写す

2年前に新規開業した小料理「結び」=タイ・バンコクで小堀晋一が2月2日写す

●日本の最上サービス伝えたい

コロナ禍のタイ・バンコクで2年前に新規開業した小料理「結び」を経営する佐藤和江さんは、店名を早くから「結び」とすることに決めていた。「おうちご飯を通じて、お客さんとお客さんが、お客さんとお店が結ばれるような、輪のようなお店を目指したい」。そんな思いからだった。だから、当初考えていたメニューも、毎日の晩酌に合うような小鉢類や一品料理が中心の「小料理」の名にふさわしい品揃えばかりが念頭にあった。

ところが、新型コロナの猛威によって、自宅で持ち帰って夕飯にしたい、店の滞在を短時間にしたいという顧客ニーズが高いことが判明。弁当や日替わり御膳の提供を急きょ始めることにした。それが間もなくすると、売上げの中心に。「お弁当や御膳の提供は、当初は全く考えていなかったが、今となっては(経営面で)すっかり救われている」とちょっぴり複雑な気持ちでいる。

毎日夕方前になると、SNSに登録している顧客リストに一斉にメッセージを送信。今日の日替わり御膳やデザートのケーキなどを写真付きで紹介している。客はその日の気分や自分の好みに合わせて、来店が選べるという仕組みだ。こうした日々の努力が功を奏し、来店客は日に日に増えていった。

佐藤さんが今考えているのは、常連の日本人客に加えて、さらなる客層の拡大だ。タイ人、欧米人、そのほかの国籍の人々…。それは「結び」の店名とも、コンセプトとも見事に重なる。次なるステージへの目標でもあった。

そこで有効な武器となっていくと考えたのが、日本人が得意とされる繁盛店づくりのノウハウだ。まだ日本にいるころ、ビジュアル・マーチャンダイジング(視覚的に行われる商品化計画)の仕事に携わっていたという佐藤さん。日本式の装飾やディスプレーの組み合わせが、売上げに大きく左右することを痛いほど知っている。出張した外国では、日本式の店舗作りが進んで取り入れられている現場を数多く見た。それをタイの自分の店で試してみたいと思っている。

「せっかく日本人として生まれ、日本の感覚を持ち合わせているのだから、最上のサービスがどこまでできるか挑戦してみたかった」と語る佐藤さん。近い将来のコロナ収束後を見据えながら、その機会を今か今かと待ち望んでいる。

もう一つ忘れてはならないとするのが、タイ出店に伴いお世話になった方々への恩返しだ。単身タイに降り立った6年前、いきなり店を構えるのは無謀だと忠告してくれた鹿児島県人会の役員の方々。さらには、自分の店でノウハウを積んでから開業したほうが良いと仕事を提供してくれた県人会のメンバー。そして陰に陽に支えてくれた多くの常連客の面々だ。

「タイに来たばかりのあの時、あのまま突き進んでいたらコロナ禍の今ごろは店を閉じていたかもしれない」と振り返る佐藤さん。いつかこの経験が、賢明な選択だったことをかみしめる日が来ることを信じてやまない。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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