海外日本食 成功の分水嶺(92)日本料理「さんや」〈下〉

外食 連載 2020.01.20 11999号 06面
サンヤさんが新規展開した活鰻専門店「うなぎ・さんや」=19年12月19日、バンコク・プロンポンで小堀晋一写す

サンヤさんが新規展開した活鰻専門店「うなぎ・さんや」=19年12月19日、バンコク・プロンポンで小堀晋一写す

 ●活鰻専門店にチャレンジ

 昨年、開店15周年を迎えたバンコク・プロンポンの日本料理店「さんや」。経営する料理人のタイ人男性サンヤ・トゥラジットさんは、この15年の間に1日の休みもなかったこれまでの体制を見直し、昨年後半から週に1日は休業日を取ることを決め、実践している。

 「オープンしたころは日本料理店はまだ少なく、お客さんのためにも休みは取らないとしていた。だが、ここ数年は日本食レストランも増え、お客さんが自由に店を選べるようになった。それに、そこまであくせく働かないでも、店も十分に回るようになった」と解説する。

 手にできる時間を得たことで始めたのが、優良店など他店の視察だった。

 「自分の店だけにこもっていると、何が問題なのか分からなくなる。これまでも視察はしていたが、時間もなく不十分だった」と、現在は遠く足を運べなかった人気店や他業態の店にも足しげく通って、店作りのヒントをつかもうとしている。

 こうした中、バンコクにあった日系の活鰻専門店が店を売りに出していることを聞きつけた。修業時代、ウナギ料理にも挑んだことのあるサンヤさん。「これだ」と一も二もなく飛び乗り、買い取った。

 とはいえ、タイにはウナギを常食する習慣はほとんどなく、地域によっては「ヘビのようだ」と忌避するところも。せいぜいが寺院のタンブン(寄進)に転用されるほどで、タイ人仲間の中には「やめておけ」と忠告する人も少なくなかった。

 それでも、日本のウナギ料理の奥深さや醍醐味(だいごみ)を知っていたサンヤさんは活鰻専門店に多角経営の活路を感じ、開店を決意。こうして昨年後半、オープンしたのが「うなぎ・さんや」だった。居酒屋の姉妹店だと分かるよう、あえて店名を同一とした。

 サンヤさんの提供する活鰻は、静岡・浜松産の輸入物。日本産にこだわった。店頭でサンヤさん自らがさばき、関東風の背開きにしている。蒸す、焼くという手順にも一切妥協はない。ゆくゆくはスタッフの料理人が一人で調理できるようにと、店内での見せる作業にこだわっている。

 コメや水、付け合わせにもこだわりを見せる。白米はジャポニカ米の産地として人気を集めるタイ・チェンライ産。常に新米の精米仕立てを届けてもらっている。水は、高品質の蒸留水。ウナギのタレも、サンヤさんが長年こだわってきた秘伝の味を加えた。付け合わせる漬物も自家製だ。

 うな重の特性ランチを破格の999バーツ(約3500円)で提供したところ、瞬く間に人気商品に。当初こそタイ人客が多かったが、最近は口コミで聞きつけた日本人客が来店するようになり、全体の7割ほどを日本人が占める店として成長した。

 居酒屋「さんや」に活鰻専門店「うなぎ・さんや」を人気店に導いたサンヤさん。それでも「料理の道に終わりはない」と、次なるチャレンジにも意欲的だ。週1回の休みを取るようになってからは、日本の北海道や仙台、東京など市場めぐりも積極展開するようになった。「常に競争。少しでも良いものを」と、その先を見据え続けている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

書籍紹介