海外日本食 成功の分水嶺(105)日本食材輸出入・催事請負「SSO213」〈上〉

総合 連載 2020.08.19 12100号 03面
客足が戻ったバンコク伊勢丹のフードコート。垣根が低くなった=タイ・バンコクで小堀晋一が7月27日写す

客足が戻ったバンコク伊勢丹のフードコート。垣根が低くなった=タイ・バンコクで小堀晋一が7月27日写す

●撤退するバンコク伊勢丹から受託

30年近くにわたってタイの在住日本人やタイ人富裕層から親しまれてきた「バンコク伊勢丹」が撤退を表明して4ヵ月。市街中心部のラチャプラソン地区にある同店は、かつてないほどのにぎわいを見せ、有終の美を飾ろうとしている。

ほとんど人影のなかった5階のフードコートにも客が戻り、平日にもかかわらず、家族団らんで食事を楽しむ姿が見られるようになった。伊勢丹全体の入場者数も昨年、一昨年を超え、往時の繁盛ぶりが戻ってきたかのようだ。閉店を惜しむ声が、日に日に高まっている。

来場したタイ人客からは「垣根が低くなった」「来やすくなった」などの声が上がっている。どこか地元の遊園地を楽しむ表情にも見える。客足が増えた原因には「ラスト営業」が寄与したと見る向きもあるが、それも限定的のようだ。集客増の背後に大きくあったのは、伊勢丹からフードコートの再生とアドバイスを求められた日系企業の存在だった。

日本食材輸出入・催事請負業のタイ法人「SSO213」がその会社。代表の新美誠治さん(45)が2018年4月に設立。以前から食材輸入や催事開催などで伊勢丹とは個人的に取引があった。6月1日から8月末日までの最後の3ヵ月間が、新美さんの双肩に委ねられることになった。

3月中旬に閉店が報じられてから2ヵ月後に、フードコートに入居していたテナントが運営元とともに一斉に撤退をした。がらんと空いた延床面積約300平方mのエリア。伊勢丹からは「何とか元気を取り戻してほしい」と注文があった。

フードコートといえば、百貨店のもう一つの顔。買い物をした後で、あるいはする前で、家族みんなで食事を楽しむのが百貨店を訪ねる客の流儀だと、昔から相場が決まっていた。

まずは、催事仲間で作る「ジャパン横丁」から出店者を募った。どんぶり専門店などが応じてくれた。一方で、伊勢丹と協議してタイ料理店にも入居してもらうことにも。「お客さんはタイ人が圧倒的。店を選ぶのに、いろいろと選択肢があったほうがいい」という判断からだった。

さらには、それまであった食品売場とフードコートの間仕切りもなくしてもらった。客は気ままに足を運び、惣菜売場などで購入した商品をフードコート内で食べられるようにもした。人の往来を自由にしたことで、自然と流れができるようになった。「圧倒的に敷居が低くなった」

客の流れが復活するようになると、階下の専門店にも客足が向くようになった。子ども服、婦人服、寝具や雑貨などの家庭用品。つい先日まで閑古鳥が鳴いていたことなどうそのようだった。飲食と物販が相互に連携する百貨店運営が見事によみがえった。

手応えは感じている。最後の営業日となる8月末日まで、さらに“仕掛け”も行う考えだ。タイに拠点を移し間もなく10年となる新美さんは、さらなる実績を積んで今後もタイで事業を続ける方針だ。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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