海外日本食 成功の分水嶺(104)日本食レストラン「ゆう奈」〈下〉

外食 連載 2020.07.17 12083号 03面
新型コロナで新調したユニフォームのマスク。おしゃれで連帯感が沸くとタイ人スタッフにも好評だ=提供写真

新型コロナで新調したユニフォームのマスク。おしゃれで連帯感が沸くとタイ人スタッフにも好評だ=提供写真

●スタッフアイデアでコロナ乗り越え

タイ・バンコクにある日本食レストラン「ゆう奈」のオーナー河上貴一さんは、1年半前に店内を2ヵ月かけ大改装。今年3月19日には、2店舗目となる「ゆう奈・別館」をすぐ近くオープンさせるなど経営は順調に推移。タイ人中間所得者層を中心に、バンコクでの知名度もすっかり向上していた。

ところが、そこに突如襲ってきた新型コロナウイルスの感染拡大。別館の開店のわずか4日後には、政府の命令によって本館、別館ともに強制的に閉鎖され、スタッフらは自宅待機となった。事前に何らの準備もできない不意打ちだった。

雇用と生活だけは保障したいと給与の50%を支給したところ、スタッフからは「売上げもないのに、どうして給料をくれるの」と意外な反応が返ってきた。「社長、(人気のある)OMAKASEセットをやろう」と誰からともなく声が上がった。ターゲットはもちろん成長著しいタイ人中間消費者層。

多くの日本食店と同じように日本人客向けの弁当競争では共倒れとなり、活路は開けないと考えていた河上さん。若干の不安を抱えながらも背中を押されるまま踏み切ったのが、それまで以上のタイ人客への傾斜だった。

SNSで情報発信したところ、次々と注文が舞い込んだ。1000バーツ(約3400円)や1500バーツもする食事が飛ぶように売れる。その都度、スタッフが温かいうちにバイクで配達する。客の多くはリピーターとなり、注文の連鎖ができあがった。間もなく選択は間違っていなかったことを実感した。

それでも手持ち無沙汰となっていたスタッフのために、3万バーツを拠出してギョウザを焼く屋台を新たに1台新調もした。店内での営業はできないが、店の前なら規制外となる。焼きたてを販売してみたところ、仕事帰りに立ち寄るタイ人客が列を作るまでに。コロナ禍にあって外出をできる限り抑え、自宅で家族と一緒に食べるというのだ。こうした人々が2パック、3パックと次々と買い求めていく。こうして雇用も収入も次第に守られるようになった。

店舗購入からの3年半を「ただただ突っ走ってきた」と振り返る河上さん。一貫して取り組んできたのが店全体の組織づくりだった。マネージャー職のスタッフには、勤怠管理以外に会計管理の重責も積極的に担ってもらっている。「プレーヤーではないよ。皆がリーダーに育って」。繰り返し、そう声をかけ続けた結果だ。毎日の朝礼も、目的意識を持って臨むようにアドバイス。貴重な時間を無駄にしないよう訴えている。

新型コロナによる営業規制も6月中旬には緩和され、営業も通常に戻った。ただ、非常事態宣言下に変わりはなく、かつてのにぎわいからはまだほど遠い。それでも早くも、河上さんは次の目標を見据える。

今、考えている第一は、故郷山陰地方とバンコクを結ぶチャーター便の就航。そして、両国のさらなる交流の深化だ。「例えば、日本の正月を味わってみたいというタイ人もきっといるはず。そうしたタイ人を山陰の山里に連れて行ってあげたい」。アイデアが尽きることはない。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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