海外日本食 成功の分水嶺(89)アライドコーポレーション〈上〉
●日本の果物を海外へ
2019年3月15日、東京・内幸町。横浜市に本社を置く食品輸出入商社「アライドコーポレーション」の氏家勇祐社長は、国産農産物などの海外輸出に取り組む優良事業者を対象に開かれた表彰会場にいた。壇上で、農林水産省の新井ゆたか食料産業局長(当時)から賞状を受け取った同社長は「ようやくここまで来た」と感慨もひとしお。5年近くにわたった日本産青果物のタイなどへの輸出事業を振り返っていた。
実母が著名なタイ料理研究家で、自らもタイに留学したことある氏家社長。元総合商社のタイ駐在員だった父親から引き継ぎ家業の社長に就いたのは2001年のことだった。タイ国内に製造ラインを複数構え、ゲンキヨーワン(グリーンカレー)、トムヤムクン、ガパオ(バジル炒め)セットなどタイ料理のヒット商品を次々と生み出し日本市場に出荷した。品質の良さと丁寧な仕事ぶりが評価されると、大手小売企業からOEM(相手先ブランド生産)供給を依頼されるようにもなり、事業にも厚みが広がった。
そして、2015年から氏家社長自らが陣頭指揮を執って新たに着手したのが、日本の甘くておいしい青果物を海外の食卓に届ける輸出事業だった。日本とタイを結ぶ輸出入の輪。満を持しての航海となった。
きっかけは、日常のふとした出来事だった。タイにある高級スーパーの陳列棚を見て回っていた時のことだ。日本のスーパーなら1個78円ほどで売られているような日本産の富有柿が約800円で売られていた。その隣には、1本100円もしないような石焼き芋が、1kg当たり約5500円の値を付けていた。
「こんな値段でも買う人がいるのか。それにしても、柿1個で800円はもうけすぎだ」。そう感じたという氏家社長。早速、知り合いの取引先などに声を掛け、事業化に着手。数ヵ月後にはバンコクで開催された食品展示会に、日本産の青果物を出展。事業への手応えをつかんだ。
中でも、競争力を持たせるために力を入れたのが、徹底した輸送方法の見直しだった。それまでの日本産青果物の輸送といえば、ほとんどが航空便を利用。輸送コストは桁違いに高額化した。氏家社長はこれを海上輸送に切り替え、CAコンテナを利用することで低コスト化に成功した。
CAとは、「制御された空気」の意。冷却に加えてコンテナ内に窒素を送り込み、低酸素化することで青果物の呼吸を抑制。輸送中の鮮度低下を防ぐという画期的な輸送方法だった。
さらに、タイ側にも冷蔵倉庫内に鮮度保持機器を設置。一度も外気に触れさせないことで、販売期間をそれまでの最大2倍に伸ばすことに成功した。
実績を重ねることでタイ国内での取引先も増えていった。当初は1回当たり100~200kgだった輸出量は、今では週当たり10~30tにも。柿、イチゴ、リンゴ、メロン、桃、サツマイモなどが好まれているという。
中でも人気の上位にあるのが、果汁をいっぱいに含んだ桃。一大生産地福島では原発事故からの風評被害で、長らく販売不振が続いていた。そこに寄せられたタイからの需要。「輸出が定着することで日本の農家とタイの消費者が喜んでもらえれば」と氏家社長は話している。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)