海外日本食 成功の分水嶺(178)「IWASHI・YAKITORI」〈下〉

連載 外食 2023.11.15 12676号 04面
日本式焼き鳥店「IWASHI・YAKITORI」の店主エディーさん(左)と妻のビーさんの自慢の焼き場=タイ・ウドンターニー県で小堀晋一が10月22日写す

日本式焼き鳥店「IWASHI・YAKITORI」の店主エディーさん(左)と妻のビーさんの自慢の焼き場=タイ・ウドンターニー県で小堀晋一が10月22日写す

 ●焼き鳥店出店に内助の功

 タイ東北部ウドンターニー県で、日本式焼き鳥店「IWASHI・YAKITORI」を経営するタイ人男性のクンナサーン・ナッタチャイさん(45、ニックネーム・エディーさん)には、最愛の妻ビーさんがいる。タイ最北端チェンライ県出身のビーさんは、接客や調理の指示出し、時には自身で客の送迎、食材の買い出しなども行う店の仕切り役。とにかくよく動く。取材時も何度も店からバイクで出掛ける姿を目にした。

 チェンライ県と、エディーさんの出身地である東北部サコーンナコン県は険しい山々で隔てられ、最短の山岳ルートでも約850km。日本でいえば、東京から九州・福岡ほどもある。知り合うきっかけなどまずあるはずもないと思ったが、返ってきた答えは意外だった。「日本で知り合いました」。

 エディーさんが日本に語学留学したのは20年前。3~4年たった時に面識を持つようになったのがビーさんだった。そのころビーさんも日本で暮らしていて、東京・浅草の高級弁当店の今半などで働いていた。交際を重ねるうちに結婚を決意。将来は故郷のタイに戻って、レストランを経営するという夢を共に抱いていた。

 エディーさんは通算13年、ビーさんも12年の日本暮らしを経て、それぞれタイに帰国。さて、どこで夢をかなえようかと二人で考えた。互いの出身地であるタイ東北部や北部の地方は、バンコク首都圏に比べれば人口はいずれも数分の1以下。出店場所を間違えば致命傷となる。

 その結果、選んだのが二人の出身地のちょうど中間にある東北部の中核都市ウドンターニー県だった。まずは出店資金を稼ぐため、ビーさんが地元の食材卸会社に勤務。5年経過した時に晴れて独立となった。

 人口約160万人のウドンターニー県はランキングで全国6位。大学や研究機関、企業などが集まっている。周辺県のほか隣国ラオスから多くの留学生や越境者も多く、街そのものがにぎわっているとエディーさんは感じた。自身も、学生時代をこの地で過ごしたことが最終的な決め手となった。

 店でメニューを考案するのは、もっぱら妻ビーさんの役割だ。日本の弁当店などで勤務していた経験から、セットやコース料理を考え、客を飽きさせないよう細部にもこだわっているという。「日本料理の良さ、日本らしさを伝えたい」と話す。

 一方、エディーさんは自身で考えたという屋外の専用の焼き場が自慢。焼いた時に出る煙が目の前の通りに自然に流れ出すよう工夫を施している。

 「日本では食欲をそそる煙も料理の一つ。中には頭からかぶる人もいたことには驚いた。でも、タイ人にはその感覚はない。ならば、そういった文化や良さも伝えたいと考えて焼き場は別棟とした」店内には、日本の飲食店にあるようなポスターや日本画がいくつも飾ってある。レジ脇には「本物の日本のやきとり。ウドンタニ一番美味」の掲示も。エディーさんとビーさん、二人が営む日本式の焼き鳥店が今日も客を待っている。

 (バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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