海外日本食 成功の分水嶺(138)和牛卸「デリカ(タイランド)」〈下〉

卸・商社 連載 2022.01.14 12347号 03面
コロナ禍の巣ごもり需要に対応してカップラーメンなどの扱いも増やした=タイ・バンコクで小堀晋一が11月27日写す

コロナ禍の巣ごもり需要に対応してカップラーメンなどの扱いも増やした=タイ・バンコクで小堀晋一が11月27日写す

●コロナ禍 巣ごもり需要にも対応

東南アジアのタイで、和牛などの輸入食肉を飲食店やホテルなどに卸している「デリカ(タイランド)」の関森大貴さんは、このところの日本国内の牛肉相場が気掛かりだ。新型コロナの緊急事態宣言が解除されて以降、国内向け流通量が増え入荷価格が2割から3割上昇しているのだ。

輸入価格が上がれば、タイ国内での販売価格も見直さなくてはならない。空前の牛肉食ブームのタイで、単価の引き上げは販売量にも影響し、利益にも直結する。日本人が経営する飲食店なら品質への評価や人的関係から取引も継続してくれるが、タイ人シェフの店では価格が第一。しかも、キックバックのマージンまで要求してくる。

このため、急な求めや難しい注文にも対応できるようにと、コロナ禍以降は航空便による輸入も増やし、利便性を上げた。「ライバル他社がやらないことを少しでも探して差別化しないと」と関森さん。ブームの一方で、頭を悩ます日々が続いている。

横浜市の出身。大学卒業後、大手食肉メーカーに就職した。海外からの食肉輸入が主な仕事。ちょうど10年間働いたところで経験を積みたいと、今度は和牛の輸出会社に転職した。ここでタイ出向を命じられ、赴任した先がデリカ(タイランド)だった。

右も左も分からない文字通りの一人きりの営業。着任したばかりでタイ語も分からない。少しでも日本語が書かれた看板を見つけては、片っ端からドアをたたいた。昼に行って責任者がいなければ、夕方に足を運んだ。客がいて手が離せないと言われれば、看板まで待った。こうして、少しずつ取引先を増やして行った。

新型コロナの感染拡大では、取引先の飲食店が軒並み営業を禁じられ、本業の和牛卸は精彩を欠いた。代わって増えたのが、巣ごもり需要を背景とした小売店向けの販売だった。だが、消費者が牛肉ばかりを求めるわけでもない。そこで手広く広げるようにしたのが、日本産米やカップラーメン、焼酎など日本の酒類の取り扱いだった。

足の長いこうした食品であれば、コロナ禍で先の読みにくくなった船便輸入でも対応できる。コロナの感染拡大以降、世界の海運市場はコンテナ不足や人手不足などから船賃は高止まりとなり、到着予定日もすっかり読めなくなっていた。時機に応じた対応が生き残りの鍵となった。

経験を積んだ今、関森さんは身の回りにも関心を向けるようになった。今年、タイでは10年ぶりとなる洪水が発生し、各地で住宅などが水に漬かった。日本ではニュースの映像でしか接しないような現実が、ここにはあった。そんな時に体験したのが、取引先から紹介を受け参加した被災者への支援活動だった。缶詰やコメ、薬を調達して船で届けた。腰まで水に漬かりながら受け取る住民がいた。

もう一つ、新たな仕事にもチャレンジしたいと思っている。現在は出向が解け、デリカ(タイランド)に本籍を置くことから動きやすくもなった。「ここには、コメも肉も、酒もある。取引先に迷惑がかからないように、飲食店の経営にも挑んでみたい」

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)