海外日本食 成功の分水嶺(147)タイ・メイド喫茶「めいどりーみん」〈上〉

連載 外食 2022.07.11 12430号 03面
メイド喫茶「めいどりーみん・MBK店」と経営者の上田好伸さん。多くの客でにぎわっている=タイ・バンコクで小堀晋一が6月10日写す

メイド喫茶「めいどりーみん・MBK店」と経営者の上田好伸さん。多くの客でにぎわっている=タイ・バンコクで小堀晋一が6月10日写す

●タイでも非日常がコンセプト

「ようこそ、夢の国へ」。メイドに扮(ふん)したウエートレスが、来場客を「ご主人さま」や「お嬢さま」と見立て日本語で迎え入れる。花柄のフリルの付いた白いエプロンドレスはどれもかわいげで、ちょっとした異国ムード満載だ。ここはタイ・バンコクのカフェレストラン。日本で生まれたメイド喫茶がタイでもすっかりブームとなっている。

メイド喫茶「めいどりーみん」は東京・秋葉原が発祥。2013年4月、バンコクに進出した。アニメや「カワイイ」など親日文化あふれる南国の地で、メイド喫茶はまたたく間にタイの若者たちのハートをつかんでいった。

タイ事業を日本側と合弁で展開する上田好伸さん(45)は静岡県の出身。03年に当時勤めていた建築関連会社の出張で、初めてこの地を踏んだ。ゆっくりと流れる時間。現地の人々の優しさ。そして、悠久のほほ笑み。すっかりとりことなった上田さんは07年に脱サラして現地で起業。多くの人に触れ合いたいと、飲食業界に足を踏み入れた。日本そば店などを運営するなどして6年後に「めいどりーみん」のバンコク出店を実現させた。

とはいえ、海のものとも山のものとも分からない日本発の不可思議なカフェレストラン。受け入れられるか心配もあったが、タイの若者たちは当初から興味津々だった。初めは恥ずかしがって二の足を踏めずにいた男性客も、一度、二度と来店を重ねるうちに瞬く間に魅了されていった。

不慣れな初心者向きに、「デビューセット」を用意したのも功を奏した。パスタやカツカレーといった日本でおなじみの軽食にドリンク、メイドと一緒に写るブロマイド撮影、猫型の耳あてがセットになったお得なメニューが初めての来店客を安心させた。一方、慣れてきた常連客には、かわいいクマの顔を模した「クマのパフェ」。一番人気で、多くのリピーターが繰り返し注文する人気商品となっている。

熱を上げているのは客だけではない。日本の「めいどりーみん」と同様に、メイドを5段階にランク分けしたキャリア制が店の活力となっている。リーダーなど役職が上がるごとに制服のかわいさが増していく仕組みで、何としてもそれを着てみたいと、ウエートレスも日々スキルアップに励んでいる。

現在は、バンコクの商業施設などに3店舗を重ねる。うち、大型商業施設MBKセンター2階に出店した「フラッグシップ店」は、新型コロナウイルスの収束が見え始めた今年3月に開店した。「ちょっと大人」をコンセプトに、従来とは変わった落ち着いた店作りにこだわった。結果、来場客の男性比率は他店よりも大幅に高く、約55%を占めている。

メイドの募集や応募は、ほとんどがSNSや口コミだ。大学生など学業との掛け持ち組も一部にいるが、多くは専業の働く女性。「そんなに簡単な仕事ではない。非日常をどのように提供していくか。それぞれが真剣に考えないと実現は難しい」と上田さん。タイのメイド喫茶ブームはしばらく続きそうだ。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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