海外日本食 成功の分水嶺(84)おにぎり販売「カフェ21」〈下〉
●頑張る日本企業を応援
日本発祥のソウルフード「おにぎり」を2014年、タイのバンコクで初めて本格販売したのが日系の人材紹介業「パーソネルコンサルタント・マンパワー・タイランド」(小田原靖社長)。販売店舗の「カフェ21」はオフィスビルの人通りの多い場所にあり、多くのタイ人客らが日々買い求めている。
当初は4、5種ほどだった具材のレパートリーも、この5年余りの間にタイ人客の好むサーモン、ツナ、サバ、エビコ、おかか、梅、菜っ葉、ゆかり、ユズ、カニマヨ、いなりといった11種ほどに増えた。1日当たりの売上げも優に50個に上るほか、現地の大学のイベントやタイ国日本人会などからの要請があると、100個から200個単位で配達も行っている。素朴な手作りの味に人気が高まっている。
何もない通常の平日は、担当のタイ人スタッフらが午前7時に出社。コメをといで炊く作業から、おにぎり作りを始めている。炊き上がった熱々の日本米を少し冷ましてから金枠に入れ、具材を丁寧に乗せる。その上に、さらに白いご飯。調達に苦労した海苔の入ったフィルム製のシートで包めば完成だ。
出来たてのおにぎりはスタッフが市場で見つけてきたおしゃれな籠に乗せられて、1個25バーツ(約85円)の均一価格で販売されている。後発のコンビニエンスストア(CVS)各社が1個30バーツ前後で売る中、価格面でも見た目でも優位に立っている。
もう一つ、カフェ21で販売するおにぎりには大きな優位性がある。その日の朝、スタッフが店頭に立ち手作業で作ることで、防腐剤などといった添加物が一切なく、人体にも安心であるという点だ。しかも当日限りの売り切り。
今ではおにぎり販売がごく当たり前になったタイのCVS各社の陳列棚を見てみると、賞味期限は軒並み4~5日間。具材の液漏れや見た目の劣化も少なくなく、消費者に与える印象は段違いだ。
ここまで現地の消費者層に浸透し、CVS各社が追随して乗り出したタイのおにぎり販売。だが、「実は(おにぎり事業は)利益は出ていない」と小田原社長は明かす。社員向けには福利厚生として、1個20バーツと値引きして販売していることも大きい。
パーソネル社のスローガンは「頑張る日系企業を応援します」。日本米は北部チェンライ県の農家で生産されるあきたこまち、具材や海苔シートはバンコクの卸問屋などからの購入だ。いずれも日本人が経営に関与する日系企業。「タイではマイノリティーである日本人が海外に出て事業に頑張っている。それを応援したい」と小田原社長は動機を解説した。
パーソネル社が始めたおにぎり販売という取組みは、CVS各社のみならずタイの各地で広がっている。「JAPAN」の冠が付けられた街のイベント会場をのぞけば、ほぼその姿を目にすることができる。コーディネートするのも握っているのもすべてタイ人。店先には「ONIGIRI」の看板。タイに定着した「日本食」の代表格に成長した。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)