海外日本食 成功の分水嶺(95)マルコメ(タイランド)〈上〉

味噌・醤油 連載 2020.03.16 12026号 03面
マルコメ(タイランド)の「発酵らぼ」と山本佳寛社長=タイ・バンコクで小堀晋一が2月21日写す

マルコメ(タイランド)の「発酵らぼ」と山本佳寛社長=タイ・バンコクで小堀晋一が2月21日写す

●日本の発酵食文化を海外へ

だし入り味噌「料亭の味」や「液みそ」などでおなじみの大手味噌メーカー「マルコメ」(長野県)。今や世界の「MISO」として知られるようになった日本の伝統発酵食品「味噌」だが、東南アジア市場を統括する同社のタイ法人「マルコメ(タイランド)」が設立されたのは2013年のこと。意外にも歴史はそう古くない。それ以前は、現地資本の販売代理店(ディストリビューター)などによる代理販売が供給を担ってきた。

市場への浸透と販売力の強化を目的にタイ法人に送り込まれたのが、転職組ながら現法社長に抜てきされた山本佳寛氏。着任は16年3月のことだった。大手飲料メーカーでタイ法人の立ち上げに尽力したこともある経験と実績に白羽の矢が立った。現地の代理店に事実上、任せっきりとなっていた現状の打開と再構築が、課された役割だった。

今ある現実を分析し、出した結論が「直販できるところは直販に切り替える」という方針だった。換言すれば「自社もディストリビューターの一つになろうということ」と山本氏。スーパー、飲食店、ホテル。回れるところは全て自分の足で回った。全てのステークホルダー(利害関係者)の協力と理解を得て、順次切り替えを進めていった。

こうして、他の商品の配置の陰で見えにくかった自社商品が目に付く形で陳列されるようになった。適正価格の1.5倍もの高値で販売されていた状態も徐々に解消され、1年あまりのうちに落ち着きを見せるようになった。タイの消費者が安心して購入できる体制が整った。

かねて、「BtoC(一般消費者取引)の延長上にBtoB(企業間取引)がある」と考えていた山本氏。次なる照準としたのが最終消費者(エンドユーザー)とのコミュニケーション作りだった。「顧客の生きた反応をデータとして把握したかった」。こうして決まったのが、初めてとなる海外常設アンテナショップ「発酵らぼ」の設置だった。折しも、大型ディスカウントストア「ドンキモール」1号店がバンコクに開業しようとしていた。その2階に店を構えた。昨年2月のことだった。

発酵らぼでは、同社商品のうち主力の80~90品目を揃える。その一角では本社や工場のある長野県と提携し、海外進出を目指す中小企業支援のための専用ブースも置いた。やがてブースは、チーム長野の拠点にも。オープニング時には日本から阿部守一知事も駆け付け、祝った。

こうして、食文化も歴史も異なる南国タイで、日本の気候と伝統を通じて作られた味噌などの発酵食品は次第に付加価値を高めていった。

日本の食文化のありのままを提供し、受け入れてもらう素地ができた。「日本をそのまま伝えられる一つが味噌。ありがたい商材」と山本氏は話す。

最終消費者の動向がつかめたことで、BtoBにも力を入れようとしている。「種まきは終わった」。加工食品企業やホテル、弁当店などに営業を掛けていく意向だ。そして、ゆくゆくはタイを東南アジア一円の拠点に。日本の発酵食文化を海外へ伝えようという試みは始まったばかりだ。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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