海外日本食 成功の分水嶺(160)スピークイージーバー「OPIUM」〈下〉

連載 外食 2023.01.25 12525号 05面
スピークイージーバー「OPIUM」は2022年末にグランドオープンを迎えた=タイ・バンコク中華街で小堀晋一が22年12月23日写す

スピークイージーバー「OPIUM」は2022年末にグランドオープンを迎えた=タイ・バンコク中華街で小堀晋一が22年12月23日写す

●思い出を再現するカクテル提供

昨年末にタイ・バンコクにグランドオープンしたスピークイージーバー「OPIUM」の人気カクテルコース「リキッド・サリーアリティー」には、文字通りの「超現実」の意味がある。誰もが持つ思い出の一瞬、過去のかすかな記憶。今や断片となってしまった情報を頼りに、当時のその場所にたどり着こうというのがこのコースの大胆な試みである。

わずかに思い起こされる残存映像や色彩、そして匂いに味覚。事前に客から取り寄せておいた質問票への答えを元に、バーテンダーがイメージを膨らませ、オーダーメードの最高の一杯を創り出す。ぜいたくなまでの思い出の再現。幻想と現実の融合世界がそこにある。

この一杯に加えて、より感覚を研ぎ澄ますことができるようにとデザインされたのが、バーテンダーが勧める三つの特製カクテルだ。記憶を喚起し、いざなってくれる先にあるのは非日常で非現実の世界。客はここで、家族や恋人、友人らと送った過去の1ページをほのかに思い起こし、ひとしきり酔いを楽しむ。

用いられているのはジンやウイスキーなど一般的な洋酒が中心ではあるが、日本酒や焼酎、梅酒などアジアの酒や食材が少なくないのも特徴だ。われわれの身近な日本をはじめとしたアジアの酒や食材がここでは引き立て役として名アシストを決めている。一杯のカクテルに込められた多国籍の絶妙な組み合わせ。こうした点も、これまでタイになかった秀逸店として注目を集めるまでとなっている。

感覚をより覚醒させるために、OPIUMでは酒類などの液体を六つのカテゴリーに区分し、使い分けて提供している。酸味のやや高めのものから極度に高いもの、食前に適したもの、食後にほどよいものなど。これらから客の好みの合ったものや、その時々の状況、食事と合った最適のものを選び出し、提供している。その的確さや構図はもはや芸術の域に近い。もちろん非合法なものは何も使っていない。

酒を味わう際の環境やムード作りも大事とされ、カクテルができるまでのプロセスを客席で堪能できるバーテンダーシートから、優雅にくつろげるラウンジシート、開放的なルーフトップシートにルーフトップガーデンシート、さらにはグランドオープンに合わせて用意したブラックジェイドルームなどと多彩に用意。雰囲気づくりの繊細さにも怠りは一切ない。環境を切り替えることで、味わいをガラリと変わっていくのも手法の一つだ。その日と目的に合った最高の場を用意して来場客を待っている。

イタリア・サルデーニャ島出身のヘッド・バーテンダー、マッテオ・カデドゥさんは、今日も新カクテルの開発に余念がない。「最近はどんな日本食材を使ったのか」の問いには、ニッコリほほ笑んでユズと巨峰を挙げてくれた。

「日本産のユニークな食材はとても魅力的。そうそう、変わったところではだしなんかも使ったなぁ。あれも最高だった」

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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