海外日本食 成功の分水嶺(76)「豚骨火山らーめん」<下> 多業態展開でリスク分散

連載 外食 2019.05.15 11876号 04面
他業種展開の切り札「ビアードパパ」は大ヒット=タイ・バンコクで。提供写真

他業種展開の切り札「ビアードパパ」は大ヒット=タイ・バンコクで。提供写真

もうもうと湯気を上げる「豚骨火山らーめん」を看板メニューに、タイ進出を果たした外食事業の「サンパーク」(大阪)。その現地法人「サンパークバンコク」の1号店が単月黒字化を達成したのは、開店わずか10ヵ月のこと。入念な市場調査とタイ人顧客を意識した徹底したパフォーマンス、それと妥協しない食材づくりが原動力となった。現場責任者の山本智史さんは「日に日に手応えを感じていくのがよく分かった」と当時を振り返る。本社海外事業部と掛け合い、多店舗展開に踏み切ったのはそれから間もなく。タイ進出から、ちょうど1年が経過した時のことだった。

新たに出店したのは、銀行や大手財閥の本社などがあるバンコク中心部シーロム地区。ラーメンを火山に見立てること自体、タイ人客を重要なターゲットとしていることは明白だった。「日本人のお客さまも大切だが、それだけに頼り切らない体制が必要だと考えた」と山本さん。初期の段階から将来を見据えた店舗展開に乗り出したことが、継続の決め手となった。

山本さんはその後、一時帰任となり、本社の国内事業担当に異動。フードビジネスを日本側から支える立場となった。このころサンパークグループのタイ事業として新たに考案されたのが、ラーメン店ではない全く新しい業態ブランドによるタイ“再進出”だった。

新規投入した2業態のうち一つがシュークリームの持ち帰り専門店「ビアードパパ」。もう一つが店内飲食も可能なパンケーキ専門店「パンケーキカフェ・ベルヴィル」だった。ラーメン店が食べ盛りの元気な顧客層を想定しているとすれば、これら2店は子どものいる家庭、あるいはカップルや女の子のグループなどがターゲット。共通するのはおしゃれでかわいくて、これまでにない感覚やイメージだった。現在、多店舗出店も達成し、前者は10店、後者は1店を展開している。

シュークリーム店とパンケーキ店の出店を「第2のタイ進出」と位置付け、相乗効果を図るのがサンパーク・タイランドの戦略だった。「普通の飲食展開だったら、一つの会社がいくつものブランド店を展開しているように見せるやり方もあるが、あえてそうはしなかった」と解説する山本さん。「顧客にしてみれば、全く別の会社が運営していると思っているかもしれない」と笑った。

その狙いについて山本さんは「リスク分散」を挙げる。競争の激しいタイの飲食業界。どのような試練が待っているかも分からない。「ならば、経営母体が同一だということを積極的に出していく必要性はないのではないか」との結論にたどり着いた。2025年までに3ブランドで70店の出店を計画している。

主力の豚骨火山らーめんが快調で、現地のスーパーマーケット資本からフランチャイズ(FC)展開の打診があったのは昨年のこと。認められたことの証しだった。これに合わせて統括責任者を置く必要が生じ、白羽の矢が立ったのが山本さんだった。タイ再赴任は今からちょうど1年前。昔の仲間が歓迎してくれた。FC展開は現在、3店まで増えている。今度は単身で、第2のタイ進出に挑戦しようと考えている。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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