海外日本食 成功の分水嶺(153)ココロとカラダの健康弁当「ヤマト・アジア」〈上〉

連載 中食 2022.10.19 12482号 03面
やまとグループが提供する健康弁当。「日本のお母さん(やぁや)が作る優しい弁当」がコンセプトだ=同社提供

やまとグループが提供する健康弁当。「日本のお母さん(やぁや)が作る優しい弁当」がコンセプトだ=同社提供

●「やぁや」の優しいご飯届ける

合計特殊出生率(女性が生涯に出産する平均の数)1.51人、平均寿命77.15歳。いずれも東南アジアの新興国タイの2019年の人口統計データである(ともに世界銀行)。一方、日本は前者が1.33人(令和4年版少子化社会対策白書)、後者の男性が81.47歳、女性が87.57歳(同3年厚生労働省)であるから、それほどの大きな違いはない。

タイでは今、急激に少子高齢化が進行し、子どもの数が減少している。17年に約70万人だった新生児は、21年には約54万人と2割超の激減ぶり(保健省)。代わって増えているのが高齢者で、65歳以上の人口割合は21年時点で13.5%(日本28.7%、国連調査)。これが年々増加している。

こうしたタイの高齢化社会を先取りして、健康弁当の提供を現地で始めた日本企業がある。石川県小松市に本社を置く「やまとグループ」だ。1982年に創業。北陸地方から全国に販路を拡大。会社向けの産業給食から高齢者・要介護者向け、個人向けまで、1日7万食の健康弁当をチルドや冷凍状態で届けている。

コンセプトは「日本のお母さん(やぁや)が作る優しい弁当を通じて、ココロとカラダを健康に」。提供しているのは、管理栄養士の監修の下、食べる人の健康に配慮してカロリーや栄養価が管理された日替わりメニューのお弁当。「やぁや」とは北陸地方の方言で「お袋さん」のこと。故郷の母親が作ってくれた懐かしい家庭料理をイメージして毎日食べても飽きない味の提供を目指している。

今後、ますます高齢化の進むニッポン。総務省統計局のデータ予測で、全人口に占める65歳以上の高齢者の割合は40年には35%を超えることは確実となっている。それとともに、健康弁当の需要も増えていくことが予想される。

一方で海外に目を転じて見ると、同様に急速に高齢化が進んでいる国が意外にも多いことに気付かされる。自社で何ができないかを考えた時、解となったのがこれまでのノウハウを生かした海外展開だった。

市場調査には5年ほどを要した。日本と同じように少子高齢化が進行している中国、シンガポール、そしてタイなどアジア数ヵ国を歩いた。その中で、競合もまだ少なく、宗教観や文化的にも比較的通じるタイが最終的な選考に残った。

現地法人の「ヤマト・アジア」を設立したのは22年6月のこと。日本から駐在員として赴任した保泉務さん(43)が実質的な指揮を執る。コネも人脈もない中で、苦労しているのは顧客開拓と知名度の向上だ。連日のようにタイ人スタッフと打ち合わせを重ねながら、事業所回りなどを続けている。

「和食に比べて味が濃厚で、塩分高いのがタイ料理。目下の課題は、健康に配慮して減塩を行いながらも、おいしさを引き出すこと。日本古来のだしの技術などを活用して、タイ人消費者に浸透させたい」と保泉さんは話す。挑戦は始まったばかりだ。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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