海外日本食 成功の分水嶺(155)ラーメン専門店「麺屋NARUTO」〈上〉

連載 外食 2022.11.14 12494号 03面
麺屋NARUTO統括本部マネージャーの桑原康人さん(中)とスタッフたち=タイ・バンコクで小堀晋一が11月2日写す

麺屋NARUTO統括本部マネージャーの桑原康人さん(中)とスタッフたち=タイ・バンコクで小堀晋一が11月2日写す

●タイでも第2次ラーメン戦争

第2次ラーメン戦争勃発–。東南アジアのタイでは今、こんなネーミングにふさわしい日本の国民食であるラーメンをめぐる熾烈(しれつ)なバトルが起こっている。8~9年前にも似たようなラーメン店の新規出店ラッシュがあったが、明らかにその時とは状況を異にする。その最大の違いは、ずばり価格。折からの円高もあって、日本円換算で1杯1500~2000円もするようなラーメンが飛ぶように売れている。

タイの首都バンコクのオフィス街。スクンビット通りソイ26にオープンした「麺屋NARUTO」2号店のランチタイムは、近くの会社や役所に勤めるOLらオフィスワーカーでにぎわう。

物価や給与の水準が異なるので単純な比較はできないが、月収の1~2%にも相当するような日本のラーメンを、惜しげもなく次々と注文する。日本でも、平日の昼食に2000~3000円もかけるようなサラリーマンは、そうはいないだろう。明らかに市場は過熱の色を帯びている。

統括本部マネージャーの桑原康人さん(41)はこの状況を「タイ人客が本格的なラーメンを求めるようになった結果」と分析する。その背景に2010年代後半に進んだビザなし渡航など日本へのインバウンド観光を挙げる。日本で出合った美しい観光地やおいしい日本食の数々。帰国後、もう一度思い出して食べたくなったとしてもおかしくはなかった。

ところが、ここに新型コロナウイルスの感染拡大という予想もしないハプニングが重なった。食べたくても日本に行けない。海外渡航の禁止は長期化し、いつまで我慢すればいいのかも分からない。しびれを切らした時に現れたのが、新天地を求めてやってきた日本のラーメン店だった。本物の味を知ったタイ人客がこぞって飛びついた。

コロナ禍がもたらした不動産市況の変化も出店を後押しした。それ以前なら、まず空き物件にならないような一等地の立地で、相次いでテナント募集が発生した。家賃相場も下落し、従前の2~3割の値崩れは当たり前となった。「借りたくても借りられないような立地に優良物件が次々と登場した。今がチャンスと出店希望者が殺到するようになった」(桑原さん)

タイにも小腹を満たすための伝統的大衆麺の「クイティアウ」がある。主に屋台で提供され、1杯わずか40~50バーツほど。鶏がらスープなどのシンプルな味付けで、卓上に置かれた調味料で自分風の味付けをして楽しむのが一般的。これを目当てに訪れる旅行客も少なくない。

ただ、成人男性の1食分には足りず、昼食代わりとするならば大盛りにするか2杯注文する必要はある。それでも価格は日本のラーメンの3分の1から4分の1で済む。圧倒的な低価格であることには違いはない。

こうした財布にも優しいリーズナブルな国民食がありながら、あえて日本のラーメンに流れるタイの消費者たち。第2次ラーメン戦争はどこへ行くのか。店も客も固唾(かたず)を飲んで注目している。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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