海外日本食 成功の分水嶺(101)宅配弁当店「まんぷく弁当道場もぐもぐ」〈上〉

連載 外食 2020.06.03 12060号 03面
「まんぷく弁当道場もぐもぐ」では手作りを心掛ける=タイ・バンコクで小堀晋一が5月17日写す

「まんぷく弁当道場もぐもぐ」では手作りを心掛ける=タイ・バンコクで小堀晋一が5月17日写す

●商機見いだす弁当販売

東南アジア・タイの首都バンコクの中心部で宅配弁当店「まんぷく弁当道場もぐもぐ」を営む桑原康人さん(39)は、栃木県出身の元料理人。若いころは東京湾の漁師の仕事に就いたこともある食のプロだ。

タイに来たのは7年前。飲食店の立ち上げ参加が目的だった。その後、焼肉店のマネージャーや別の店のオープンにも関わり、昨年1月に自身の店となる弁当店を知人から譲り受けた。

宅配や持ち帰りに特化して広い店舗を必要としないことから、家賃がかからない。客を招き入れる必要がないから、椅子や机などの備品も最低限で済む。

配達は小回りの利くバイク。周辺はオフィスビルや商業ビルが多いことから、冷房の効いた室内でランチを済ます客が多い。条件としては申し分がなかった。

だからこそ、味と量にこだわった。すべてのメニューと調理法を見直して、市販の食材を可能な限り廃止。手作りに切り替えた。今では看板の唐揚げも店内で味付けから調理している。客からは「おいしくなった」と好評だ。

店名の「まんぷく」や「もぐもぐ」といった響きから、「おなかいっぱいになってもらいたい」(桑原さん)と、ご飯の量もそれまでの300gから350gに増量。プラス10バーツ(約34円)で、さらなる大盛りにも応じる。

圧巻は、プラス100バーツでおかずとご飯が最大2倍にもなるメガサイズ弁当。ずしりと重みのある重量弁当は、若い男性客の人気の的だ。

タイ人消費者の口に合うようなメニューの開発・販売にも力を入れている。サーモン照り焼き弁当、サバ竜田揚げ弁当、鶏照り焼き弁当、エビフライ弁当は、いずれも正規のメニューにはない“裏メニュー”。常連タイ人客のニーズから商品化した。甘辛両極端を好む国民ならではの人気弁当だといい、メニューにないにも関わらず注文は連日ひっきりなしだ。

価格の見直しも実施した。とかく「高い」との印象がある日本食。何とか200バーツ以内でとの思いから値段を再設定。子ども用のハンバーグ弁当や唐揚げ弁当、一般の丼物については120バーツからと価格を落とし、客への浸透を目指した。

配達エリアを広範に設定したのも、ライバルとの差別化を図るため。日本人が多く住む高架鉄道BTSのナナ駅からオンヌット駅まで7駅分をカバー。さらには、金融街のシーロム地区やサトーン地区までもエリアとする。「困った人がいるのなら、1食分でもお届けする」が経営理念だ。

母親が北海道出身だった縁で、16歳から東京湾で漁をしたという桑原さん。出港は毎朝午前2時から9時まで。働くことの大変さを肌身で感じた。捕れたのは江戸前寿司には欠かせないスズキ。締め方や調理法も漁師から教わった。

その後は築地市場の仲卸で働いたことも。こうした経験がきっかけとなって、ずっと食と関わる道を歩んでいる。

弁当店を引き継いで間もなく1年半。「食との関わりはまだ道半ば。これからも商機を見つけながら、こだわって生きていきたい」と話す。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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