海外日本食 成功の分水嶺(79)黒ニンニク製造販売ペロンヤスさん〈上〉

外食 連載 2019.07.10 11906号 03面
「忍の森」の前で、熟成を終えた黒ニンニクを持つ宮内靖彦さん=提供写真

「忍の森」の前で、熟成を終えた黒ニンニクを持つ宮内靖彦さん=提供写真

 ●タイで日本の健康食品を

 見た目は、中華料理などに使用される「ニンニク」そのもの。でも、皮をむいて中から出てくるのは真っ黒に変色したドライフルーツのプルーンのような塊。試しに口に入れてみるとしっとりとした感覚に、まるで果物のような甘み。完全無添加、病気予防の王様とされているのが、日本発祥の「黒ニンニク」だ。

 黒に対し、普通に流通する生ニンニクを白ニンニクと呼ぶこともあるが、品種が別にあるのではない。白を2週間以上、加熱熟成させて黒色に変色したものがそう呼ばれている。色が変わるのは、アミノ化合物と還元糖が反応し「メイラード反応」と呼ばれる褐色変化が起こるためだ。玉ネギを炒めた時や、味噌、醤油も同じ反応で褐色となる。熟成を重ねることでより黒色が増していく。

 黒は白に比べて抗酸化力が100倍以上にも達することが、研究者の間で解明されている。活性酸素を除去する抗酸化力によって新陳代謝が活発になり、末端神経を拡張させて血行が良くなる。黒に豊富に含まれるアミノ酸の一種アルギニンは、血糖を抑えるほか体内の余分なアンモニアを除去し、栄養ドリンク並みの疲労回復ぶりももたらす。

 この最強ともいえる健康食品をタイで製造・販売し始めた日本人がいる。俳優業を本業とし、日タイで活躍中の芸名「ペロンヤス」こと宮内靖彦さん(41)。バンコク中心部から北に約120km。サラブリー県ノーンドーン郡に作業場を兼ねた自宅と1.7ライ(1ライ=1600平方m)の「忍の森」を持ち、ここからバンコクに向けて出荷をしている。

 試作に試作を重ねて、数ヵ月。ようやく理想の黒ニンニクが安定的に生産できるようになった。ニンニク片を多数持つ一般的な品種ではなく、リーキと呼ばれる単一の鱗茎(りんけい)を作るタイ名「ガティアムトーン」と呼ばれる品種を使っている。タイでは広く知られ、滋養強壮や高血圧症の緩和、コレステロールの低下などに効用があるとされる。山々が連なるタイ北部は豊富な食材に恵まれ、市場はいつも新鮮な野菜や肉、魚であふれている。市場めぐりはヤスさんの日課で、最適の食材としてこれを選んだ。日本では「ジャンボニンニク」の名でも通っている。

 黒ニンニクの生産には、家庭用の炊飯器を使う。皮ごと釜の中のザルに入れ、ガーゼで蓋をする。水分を飛ばす必要から水洗いや加水はしない。保温で最低10日~2週間。ニンニクはだんだんと変色をしていく。

 「20日目ごろが私にとっての食べごろ」とヤスさん。希望により、硬めのもの、軟らかいものとアレンジすることも可能だ。2kgのガティアムトーンから400~700gの黒ニンニクが“収穫”できる。

 自然の力に魅力を感じ、パワーフードや熟成・発酵食品にも目がないヤスさんは、自宅隣の「忍の森」でガティアムトーンの栽培や家畜の飼育も今後進めていきたいと話す。少し前まで水道も届いていない場所だった。「多くの子どもたちがここで自然と触れ合うことができれば」。その第一歩と位置付けた黒ニンニクの仕上がりぶりに、今は少しだけ満足している。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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