海外日本食 成功の分水嶺(113)日本式焼肉店「チェンマイホルモン」〈上〉

連載 外食 2020.12.09 12157号 03面
大人気のチェンマイホルモンと経営者の内田誠さん=タイ・チェンマイで小堀晋一が10月29日写す

大人気のチェンマイホルモンと経営者の内田誠さん=タイ・チェンマイで小堀晋一が10月29日写す

●焼肉ブームに乗り急成長

「タレを付けて食べるのが日本式の焼肉。一方、サンチュなどに巻いて食べるのが韓国式。素材の味が堪能できる日本式の焼肉をタイの人にもぜひ知って、味わってほしかった」

こう出店の動機を語るのは、焼肉の本場、大阪出身の内田誠さん(45)。タイに居を移してもうすぐ20年。現地で結婚もし、9年前からは北部チェンマイで暮らしている。この地で日本式焼肉店「チェンマイホルモン」2店舗と居酒屋「十べゑ」1店舗を経営する定住組だ。

チェンマイの気候、風土、物価などの住みやすさ、人々の温かさなどにすっかり魅せられた内田さん。「仲間内で集まって、赤字にならない程度なら…」という気持ちで始めたのがチェンマイホルモンだった。城郭のある旧市街のすぐ北側。ここに1号店(本店)を構えたのは2013年9月のことだった。

タイの仏教宗派の一部では牛肉食は禁忌とされることもあって、開店当初はタイ人客はほぼゼロ。低調な状態が1年ほど続いた。1皿100バーツ以下というタイ人客を意識した思い切った値段設定を心掛けもしたが、予想したほどには響かなかった。ビュッフェ形式のムーカタ(タイのローカル焼肉)が1人99バーツ(約340円)で食べ放題の時代だった。

それでも徐々に来店客が増えるようになると店も少しずつ軌道に。こうした時にめぐってきたのが予想もしない展開だった。タイの著名なブロガーが、自身の交流サイト(SNS)で日本式焼肉を取り上げ、それがTV番組なども巻き込んでちょっとしたブームとなったのだ。6~7年前のことだ。

この中で、チェンマイホルモンもおいしい店として紹介されるようになると、客足は一気に拡大。連日盛況となった。こうして、ピーク時には店頭に行列ができるまでとなり、時には入店を諦める客も。このため急きょ新設されたのが、2号店に当たるノンホイ支店だった。本店から南に車で15分ほど。18年9月にオープンした。

新型コロナウイルスの感染拡大により、今年4月は丸ごと1ヵ月間の閉鎖を余儀なくされた。コロナ禍前、タイ人6、中国人3、日本人1弱だったという客の割合も、外国からの旅行客が完全に途絶えたことからタイ人の内需頼みに。それでも最悪期でも前年比6割ほどの落ち込みで済んだといい、現在は前年の8割を超えるまでに回復するまでとなっている。

「タイ人は牛肉を食べないと聞いていたので、オープン当初は恐る恐るだったが、受け入れてもらってホッとした」と振り返る内田さん。チェンマイホルモンはすっかりとこの地の名店へと成長した。10月下旬にあった伝統行事ロイクラトンでは、この店の焼肉を食べようと前日から現地入りした国内観光客が列を成したほどだった。

これまで宣伝を一度も行ったことがないという日本式焼肉店。それは、バンコクから北方約700kmの古都にある。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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