海外日本食 成功の分水嶺(103)日本食レストラン「ゆう奈」〈上〉

外食 連載 2020.07.13 12080号 03面
日本食レストラン「ゆう奈」のオーナーの河上貴一さん。後ろの屋台でスタッフ(左)がギョウザを焼いている=タイ・バンコクで小堀晋一が6月2日写す

日本食レストラン「ゆう奈」のオーナーの河上貴一さん。後ろの屋台でスタッフ(左)がギョウザを焼いている=タイ・バンコクで小堀晋一が6月2日写す

●ターゲットはタイ人の中間層

タイ・バンコクのスクンビット・ソイ11かいわいといえば、西洋人やアラブ人が集う街。高架鉄道BTSの沿線にあっても、それほど日本人が多くないエリアに日本食レストラン「ゆう奈」はある。2014年にオープンしたが、現オーナーの河上貴一さん(49)が約2年半後に買い取った。それから3年半。当初90%が日本人客だったという店は客層が逆転し、今ではタイ人客が9割を占めるまでに。新型コロナウイルスの感染拡大をも乗り越え、タイ社会にすっかりと受け入れられるようになった。

鳥取県出身の河上さんが故郷の食材と向き合うようになったのは、同県内でリゾート事業などに取り組んでいた2008年ごろ。規制緩和の流れの中、故郷の魅力を全国に伝えようと鳥取和牛などの全国販売を始めた時だった。

次第に関心は国内から海外にも向くようになり、当時香港にいたいとこに連絡。海外視察も行うようになった。その時、ふとした縁から参加することとなったバンコクで行われた商談会。ここで手応えをつかみ、日本からの食材輸出を現実にしようと考えていた時、「ゆう奈」が売りに出されていることを知った。

「アンテナショップになる」と直感した河上さん。すぐさま買い取って自身の“基地”とした。早速許可を得て開始した輸入食材は、鳥取和牛のほか、境港産のカニ、果物、ナシなど故郷の逸品ばかり。程なく、シンガポールから専属のシェフも招き入れ、山陰産の日本食材を堪能できる店として再スタートを切った。

もっとも、そこまでだったら他の多くの飲食店でも似たような店づくりは行っている。そこで河上さんが一計を案じたのは、タイで爆発的に浸透しているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を取り入れていくこと。狙いは、ずばり所得の向上したタイ人中間消費者層だった。

日本人客ばかりで繁盛している店に、そうそう大挙してタイ人客が訪れることはあまりない。日本人のように客席ごとにこぢんまりと食事を楽しむのも、あまりタイ人向きでもない。そこでスタッフと相談して河上さんが採ったのが、店全体をライブ感で盛り上げていくという戦略だった。

例えば、今年3月には、タイで大人気の日本のアニメ「名探偵コナン」になぞらえたイベント「コナン・ナイト」を開催。日本からコナンの故郷である鳥取県北栄町の町長や地元県議らを呼び、タイ人客との交流を図った。その様子は、タイで人気のあるブロガーに頼んで情報発信してもらったほか、ライブ映像をSNSで配信することで拡散も行った。こうした取組みを繰り返し実施していくことで、店の知名度もだんだんと上昇。客が客を呼んで、瞬く間にタイ人客の人気上位店に躍り出るようになった。

タイで外食を楽しむ多くのタイ人は、食事と飲酒を分けて考え、食事を重視する傾向がある。その点も考慮に入れ、料理に割安感やイベント感満載の「OMAKASEセット」も採り入れ、客の満足心もくすぐった。「繰り返し繰り返し、タイ人向けにイメージをすり込んでいった結果」(河上さん)が功を奏した形だ。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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