海外日本食 成功の分水嶺(145)生活雑貨均一ショップ「タイ・ワッツ」〈上〉

連載 小売 2022.06.10 12413号 03面
「タイで日本の盆やわんが売れている」と話す稲田敏之さん=タイ・バンコクで小堀晋一が4月29日写す

「タイで日本の盆やわんが売れている」と話す稲田敏之さん=タイ・バンコクで小堀晋一が4月29日写す

●日本の食器が静かなブームに

タイの首都バンコク中心部スクンビット通り。日本人も多く暮らすこの町の雑貨屋で、このところ日本の食器がタイ人客に引っ張りだことなっている。漆塗り調に仕上げられた一人前の小さなお盆やおわん。表面には金色の塗料で桜やウサギの模様が描かれており、これが飛ぶように売れているのだという。タイに居ながらにして感じられるニッポン。静かなブームを巻き起こしている現場を訪ねた。

「アフターコロナを見越してカフェを開くことにしたんだけど、好みの食器になかなか出合わなくて。ようやく見つけたのがこのお店。食器もイメージにピッタリだわ」

こう話すのは、バンコク西郊ラチャブリー県でカフェを出店しようと計画しているトムさん。友だちと連れ立って日本食器を買い求めに来たのは5月半ば。コーヒーなどの飲料や軽食を乗せる一人前用の盆(トレー)はないかとバンコク中の雑貨店めぐりをしていたところ、「タイ・ワッツ」の店舗を見つけ、お目当ての品々にめぐり合ったという。盆とわん、それに陶器製の食器を合わせて計8人前、購入することにした。

タイ・ワッツは、大阪に本社を置く100円ショップ「ワッツ」のタイ法人。2009年に進出。現在は大手財閥セントラル・グループの出資を受け入れ、合弁で日本食器など生活雑貨全般の販売を行っている。バンコク首都圏を中心に、全土で計41店舗を展開。1品60バーツ(約220円)が基本のタイの均一ショップだ。

日本の食器はタイ出店当初からの品揃えの一つだった。それが3年ほど前から目に見えて売れ筋に転じ、入荷ペースも次第に引き上げられるようになった。漆塗り調の盆やおわんのほか、美濃焼の食器や小皿など30~40種類余りが常時、陳列スペースに並べられている。以前ならば3ヵ月に一度の仕入れでよかったところ、現在では最短で1ヵ月に一度のペースでの入荷となっている。

タイ・ワッツでマネージング・ダイレクターを務める稲田敏之さん(55)はタイ出店当初からの駐在責任者。10年を超えるこの間の市場の変化をつぶさに見てきた。日本の食器が売れるようになったここ数年は、タイで日本ブームが再燃した時期とちょうど重なる。日本の美しい四季や果物、抹茶などを素材としたおしゃれ感の強い食品や商品が次々と開発され、タイ人消費者のハートをとらえていた。こうした新製品の販促などに欠かせないものが、引き立て役となる伝統的な日本の食器だった。

個人による購入も少なくないというが、多くはカフェや飲食店などによるまとめ買いが中心だ。1回当たり20~30個の単位で日本食器が飛ぶように売れていく。

間もなくアフターコロナを迎えることになる街のあちこちでは、日本をイメージしたおしゃれな店の出店が続いている。

新型コロナによる消費の低迷で、一時は深刻な打撃を受けたタイ小売業界。その起死回生役の一つに日本の食器があった。稲田さんもこうした動向に手応えを隠さない。「今後も市場動向を見据えた商品供給を続けたい」と語った。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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