海外日本食 成功の分水嶺(111)安全食材宅配業「マノフードサービス」〈上〉

総合 連載 2020.11.18 12148号 04面
マノフードサービスで取り扱う安全食材=タイ・チョンブリー県で小堀晋一が10月19日写す

マノフードサービスで取り扱う安全食材=タイ・チョンブリー県で小堀晋一が10月19日写す

 ●真心込めて家庭に届ける

 タイ東部チョンブリー県にある海辺の街シーラーチャー郡は、人口30万人を超える地方都市。内陸部にはいくつもの工業団地が点在し、製造業を中心に日系企業などが数多く進出している。駐在員が暮らすのはもっぱら利便性の良い海岸近くの幹線道路沿い。ここに日本人が数千人単位で暮らし、ちょっとしたコミュニティーを作っている。

 こうした日本人の駐在員家庭に野菜やコメ、パンなどの家庭向け食材を配達しているのがタイ人オーナーのコラコット・ピムタウォンさんと妻の紀子さんの夫婦だ。宅配サービスのブランド名は「マノフードサービス」。「マノ」はタイ語で「心」。接尾語を付けた「マノターム」は「良心」を意味する。「真心を込めて安全食材をお届けしたい」。そんなピムタウォンさん夫婦の思いが込められている。

 今から10年以上前の2009年に事業をスタートさせた。同じシーラーチャー郡内にある日系企業に勤めていたコラコットさんが脱サラして起業。妻紀子さんも一人息子の子育てに手が掛からなくなり、夫婦で念願の「安全食材」の宅配サービスをスタートさせることになった。

 当初取組みをしようと考えたのは、日本でも広く関心が持たれるようになったオーガニック(有機農産物)野菜。遠く異国の地で暮らす駐在員の奥さんたちに、日本と同じような安全野菜を提供したい。そんな思いからだった。ところが調査して分かったのは、熱帯という風土・気象条件のあまりの違いから、日本と同様のオーガニック野菜は、年間を通じての栽培・収穫はタイではほぼ不可能という厳しい現実だった。

 そこで改められたのが、多少の農薬などは使用したとしても人体への影響は限りなく少ない、タイ政府が認可した生産ルートのしっかりとした食材に限るという方針だった。野菜から始まった食材の配達はその後、卵、タイ産日本米、冷凍加工食品、肉類、焼きたてパンなどへ順次増えて行った。取扱品目は今では少なく数えても100種類以上。ほぼ生活に必要な食材を買い求めることができる。

 毎週土曜日にメールなどで注文を受け付ける。それを元に家庭ごとに仕分け、保冷用容器で翌月曜日と火曜日に個別宅配する。背丈の高いトラックを運転するのはコラコットさん。助手席の紀子さんが、配達先でのもっぱらの話し相手役だ。

 夫の転勤とはいえ、未知の異国の地で暮らす駐在員の家族たち。不安や心配はいかばかりだろうと、できる限り反応を素早く、丁寧な対応を心掛けている。ついつい世間話に花が咲くこともある。タイでの暮らし方、ちょっとした生活のヒント。そうした無形の“商品”も喜ばれている。こうして増えていった顧客数は300世帯以上。ほぼすべてが口コミでの広がりだ。

 「10年はあっという間」と流ちょうな日本語で話すコラコットさん。自身が考案したという「マノ」というブランド名は、真心を持ってシーラーチャーの街に着実に浸透している。

 (バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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