海外日本食 成功の分水嶺(156)ラーメン専門店「麺屋NARUTO」〈下〉

外食 連載 2022.11.16 12495号 12面
いわゆる二郎系ラーメンはタイでも大人気。インスタ映えするからだという=桑原さん提供

いわゆる二郎系ラーメンはタイでも大人気。インスタ映えするからだという=桑原さん提供

●一つ一つにこだわりと手間を

タイ人訪日旅行者の増加や、その後にまん延をした新型コロナウイルスの副産物として、タイ・バンコクでこのところ過熱している第2次ラーメン戦争。ラーメン1杯300バーツ(約1200円)は当たり前。店によっては400~500バーツ、あるいはそれ以上も。市場は明らかに従前とは違ったステージに突入している。

9月にラーメン店「麺屋NARUTO」の2号店を出店した統括本部マネージャーの桑原康人さんも「8~9年前のラーメンブームとは、質と価格、出店スタイルにおいてかなり異なる」と指摘する。「こだわりを持つ店が多くなった」と分析する。

2010年代前半ごろの第1次ラーメン戦争は、日本のチェーン店がタイに進出し、展開したものが中心だった。確かに日本のラーメンではあったが、多店舗展開を主目的としている以上、個性は出にくかった。とんこつ、醤油といった大まかな違いがある程度だった。訪日旅行はまだ数えるほどで、タイ人消費者も日本の本当のこだわりの味を知らなかった。

もちろん個人店の出店もあったが、もっぱらチェーン店が市場で幅を利かせていただけに、価格や内容においてある程度足並みを揃えざるを得なかった。このため「どうしても、パンチのある店は少なかった」(桑原さん)。価格帯も100バーツ台という安全価格で提供するのが、業界の「常識」とされていた。

やがてブームは去り、チェーン店が淘汰(とうた)・撤退するようになると、タイのラーメン業界は少しずつ進化を始める。それがこだわりのラーメンだった。日本から個性的な店舗が次々と出店した。一方、タイ人消費者もビザの免除とともに日本旅行を楽しむことになり、日本の旅先でご当地ラーメンを堪能するようになった。帰国後、こうした人々が核となってラーメン愛好者が増えていった。

麺屋NARUTOは、桑原さんが勧める味噌ラーメンが看板商品だが、いわゆる二郎系ラーメンや醤油ベースのあっさり味も提供するなどメニューは幅広い。特徴的なのは、そのすべてにこだわりを見せていることだ。

スープの決め手となる調味料の多くは日本から取り寄せ、安易な現地化はしない。麺も信頼できる現地の製麺所からしか入荷しない。チャーシューは低温調理したり薫製にするなど手間をかける。こだわればこだわるだけ原価は増し、販売価格は高くなる。「それでも、おいしさを知ったタイ人消費者は来店をやめようとしない」と桑原さん。ここに、第2次ラーメン戦争の本質があると指摘する。

こうした市場の変化を受けて、新たに参戦する動きも広がっている。今のところプレーヤーは日本のラーメン職人が中心だが、日本で修行を積んだタイ人料理人も目にするようになった。

コロナ禍で大きな打撃を受けたタイの消費社会だが、本物を求める志向だけは不変のようだ。こうした動向を受け桑原さんは、次なる出店場所としてタイのローカル地区に照準を合わせる。新たな戦いの行方が楽しみだと語る。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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