海外日本食 成功の分水嶺(115)タイ・タタミ・プロダクツ〈上〉

総合 連載 2021.01.06 12168号 06面
「どんな編み方にも対応できる」と日本製の織機で畳表を織り上げるタイ人職人の二人=タイ・チェンマイで小堀晋一が20年10月30日写す

「どんな編み方にも対応できる」と日本製の織機で畳表を織り上げるタイ人職人の二人=タイ・チェンマイで小堀晋一が20年10月30日写す

●タイ唯一の畳メーカー

コロナ禍に見舞われた2020年はタイ人消費者の嗜好(しこう)が日本食に向かった一年だった–。日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめたタイ飲食店調査で、こんな実態が明らかになった。それによるとタイ全土の日本食店は前年比12.6%増の4094店と初めて4000店台を突破。その中でも寿司店が同50.9%増と首位に浮上。2位の総合和食店と合わせて全体の半数を占めた。

一方、新型コロナ対策による政府の営業禁止令などによって調査開始以来最多の726店が廃業や無期限休業に追い込まれた。これらを補う形で業績を伸ばしたのが、自宅での飲食に便利でお手軽な寿司のテークアウトやデリバリーだった。寿司をはじめとした日本食は、コロナ禍の巣ごもり状態の中でも着実にタイ消費者層の心をつかんだ。

こうした日本食を提供する飲食店の内装で、真っ先に挙げられるのが寿司などの和食を側面から彩る畳だ。純和風が醸し出す雰囲気は料理の味を引き締め、おいしさを倍増させる。畳のない寿司店や和食店は考えられないし、自宅で日本食を楽しむ際にも和室で座って食するだけでムードもまた格別となる。

そんな日本食ブームが定着したタイに、国内唯一の畳メーカーがあるのをご存じだろうか。北部チェンマイ県にある「タイ・タタミ・プロダクツ」。1992年創業の同社は、熊本・八代産のイグサを輸入。畳として製品化し、タイ国内に出荷するほか近隣国に輸出もしている。

3ライ(1ライは1600平方m)ある工場では、タイ人の職人がタイ産の綿糸を使って畳表を織り上げる作業が行われている。日本の老舗織機メーカー製の織機が使われ、丁寧に織られていく。「日本製織機は長持ちするし、どんな編み方にも対応できる万能機。これがあることでタイでも生産が可能となった」と代表取締役社長の島田正治さん(75)は話す。

もともとは日系企業のタイ駐在員だった島田社長。熱帯のタイでは全土でゴザを使う習慣があり、「需要があるのではないか」と考えたことなどがきっかけとなって、この事業をスタートさせた。

当初は、イグサの栽培そのものからタイで一貫生産ができないか検討がされた。ところが、気候の違いからタイではイグサは思うように成長せず、背丈は長くても1mほど。穂先と根元は刈り取るので使用できる部分が少なく、商品化にはほど遠いことから、イグサだけは輸入することを決めた。

それでも同社が生産する畳は品質に優れ、値段が手頃なこともあって需要も伸長。今では年4回、各回4000kg余りのイグサが日本から輸入され、生産が進められている。

製品となった畳は内装業者などを通じてバンコクの日本食店などに納められていく。一方で、近年は分譲マンション向けにも出荷されているといい、需要の幅も広がっている。自宅に畳の部屋を希望するタイ人客も少なくなく、ニーズに応じた形状の畳生産にも応じている。アイテム数は今では500を超えるという。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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